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思い起こせばその信仰は、実に根深いものでした。
わたしの運命が決まったのは、あの6歳の初夏の日のこと。
無残に踏み殺された蛾を見て、ショックで倒れてしまった鏡子に幼いわたしは呼びかけながら、神に祈っておりました。
(神さま、どんなことでもします。どうか、どうか、わたしの元から鏡子を奪わないでください……)
天の上にいる神さまは、わたしの願いを聞き入れました。
それがきっかけだったのです。
凡庸でとるに足らないわたしがこの人生をかけて求めた「真実」はそこにありました。
この世は醜く残酷で、まるで救いのない場所ですがーーそれでも尊いものはあり、それを信奉することこそが、真にうつくしい生き方なのだと。
今ではもう、気づいています。
後にも先にも命尽きても、わたしの愛する人間はーーこの世で「鏡子」ただひとりだと。
あなたのためなら罪も犯すと口にしたあの夜の闇の中。
「ああ、佳子、大好きよ……」
わたしの女神はそう言って、わたしの迷いを取り去りました。
鏡子を不幸にする者は、何人たりとも許しはしない。
鏡子の愛に報いるために、わたしはどんなことだってする。
ーーだから、わたしはやったのです。
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