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一連の事情聴取を終えて、取調室を後にしてから。
老練の三島刑事はなぜか、まっすぐ自分の席に戻って仕事をする気が起こらなかった。
休憩所の椅子に腰を下ろし、しばらく自販機のジュースの列をぼんやり見つめて気を鎮めたがーー喉の奥にねばつく嫌悪感は一向にとれそうになかった。
(やれやれ、まったく気味がわるい……)
二日に及んだ供述の後、元バレエ教師殺人事件の犯人は最後にこう語った。
ーーこの物語はわたしという、悪魔に魂を売った女の因果応報の記憶です。
ですがわたしは自分の罪に、少しも後悔していませんし、今でも彼女を愛しています。
もしも神さまがわたしを見捨て、わたしを死刑になさるなら。
刑事さん、その時は。
どうか死刑の執行の場に、鏡子を立ち会わせてください。わたしは鏡子に見られながら、彼女の前で死んでゆきたい……。
それがどうしても無理というなら、せめてわたしの死の光景を、彼女に教えてあげてください。
鏡子はきっと、あのうつくしい蛾眉に恍惚の色を浮かべてーー最後にこう言ってくれるでしょう。
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