*****(伏せ字)

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本題からは少しそれますが、短い「喩え話」をします。 アンデルセンの書いた童話の、「すずの兵隊」をご存じでしょうか。 「しっかり者のすずの兵隊」 物語のあらすじはこうです。 とある少年が誕生日に、おもちゃの兵隊を貰いますが、25体の人形のうち、最後の1体だけは原料の「すず」が足りなくなったため、片脚を欠くことになりました。 この片脚の兵隊は、同じくおもちゃ箱に住んでいた、うつくしいバレリーナ人形に淡い恋心を持ちますが、びっくり箱の悪魔のせいで、家の窓から放り出されてそれはもう酷い目に遭います。 バレリーナとの再会を胸に、すずの兵隊は苦難を越えて、最終的にはやっとのことで、元の家まで帰り着きますが、その時吹いた風に飛ばされ、彼は愛しい彼女もろとも暖炉の炎に焼かれたのでした。 なんとも無残な話でしょう? わたしがこの物語を初めて知ったのは児童用の絵本で、そこでは子どもにわかりやすいよう、結末を変えてありました。 いわくーー兵隊とバレリーナは、暖炉の炎で焼かれましたが、炭の中にはふたりの心が「ハートのすずの塊」となって、「燃えずに残っていた」そうです。 改編されたこの結末は、それからずいぶん後になるまで、わたしの記憶の中に微かな「違和感」と共にありました。 だっておかしな話でしょう? 大人になって原作を読み、改めて合点がゆきましたがーー原作におけるバレリーナは、最初から最後まで不釣り合いな兵隊のことなど気にも掛けず、目に留めさえもしませんでした。 すずの兵隊の愛情は、一方的で悲劇的。 けれどそれこそわたしにすれば、現実的だと思われました。 批難を覚悟で申し上げますが、たとえ物語の中にせよ、美麗な優秀なバレリーナが、「わざわざ」ただの兵隊などを好きになる理由はありません。 彼が誰より清い心で、秘かに想っていてくれていたから? ……そんなことは、ありえません。 ですが、もしも、万が一。 あのうつくしいバレリーナが、ただの兵隊を気に掛けるなら。 そこには物語に出てこない、深い「闇」があるはずでした。 *
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