*****(伏せ字)

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大学四年になった頃。 鏡子は恋に落ちました。 相手は「折口」という名前の、銀座のバーで鏡子の隣に座った三十過ぎの男で、資産家相手に財産管理の仕事をしているそうでした。 ハンサムで金払いが良く、立ち振る舞いのスマートな彼は、信条として女性に媚びないスタイルを持っているようでした。初対面のわたしたちに対し、まるで物怖じせずに上から目線で物を言うその姿は、鏡子にとっては新鮮で、興味深かったのでしょう。 連絡先を交換し、その後もたびたび鏡子の方から誘いを掛けていたということに、わたしは衝撃を受けました。 折口と付き合いだした鏡子は、暇さえあれば彼のことばかりわたしに話したがりましたがーーわたしは彼が嫌いでした。 折口は鏡子の何を知って、どんな素性をわかった上で、彼女の側にいたのでしょうか。 「鏡ちゃん」という気安い呼び名も虫酸が走る気持ちでした。 鏡子に爪弾きにされだして、ひとりの時間が増えたわたしは、アルバイト代の15万円で折口の身元を調べました。 折口は千葉のマンションに住み、現在妊娠中の夫人と、2歳の娘がいるようでした。 不倫の事実をそれとなく、鏡子に伝えてはみましたが、彼女は今さらそんなことなどお構いなしという風に、ひらひら手振り言いました。 「ほっといて。わたし、あのひとに抱かれたいの。佳子には関係ないでしょう?」 語気が乱暴になったのは、鏡子にとっては人生初の、本気の恋だったからなのです。 善からぬ道であったとしても、たとえ親友を無下にしても、好きな男の側にいたい。 わたしには、わかりました。 鏡子の意思はそれだけ強く、深く純粋なものでした。 「わかったわ。できるだけ……あなたの恋に協力するから」 結局そうして折れた時、わたしはなんだか初めて彼女の「素顔」を見たような気になりました。 *
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