3話 閉店セール

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3話 閉店セール

 寂れた商店街の一角に、所謂(いわゆる)町の電気屋さんがある。  大型電気店が近所に出来るまでは、それなりに繁盛していたのだろう。   時代の波に飲まれ、閉店を余儀なくされたのか薄暗く感じる店内の入り口にチラシが貼られていた。   『○□デンキ、閉店売りつくしセール全品50%OFF』  普段ならば余所者には少々肩身が狭いように感じられる、こういった店を避けて通るのだが、学生の一人暮らしで洗濯機が壊れてしまっては仕方が無い。  バイトと、学校の往復で大型量販店にまで足を伸ばす時間も無い。  そして何より全品50%OFFと言う謳い文句は、懐の寂しい賢治が惹かれない訳が無かった。  取り敢えず商品だけでも見てやろう。  そんな気持ちで店へと立ち寄る。  細長い平屋を改装して、店舗にしているようで、店の入り口はスモークガラスの扉になっている。  片側だけ扉は開かれ薄暗い店内が見えた。  店の周りには電子レンジや掃除機が無造作に置かれており値札がヒラヒラと風になびいている。   「やってんのかなぁ……、まぁ、洗濯機無くても安いもんあったら買って帰ろうかな」  賢治は独り言を呟くと、ゆっくりと店の中に入った。  電化製品が所狭しと置かれ、人の気配は感じられない。  何だか、まるで人の家に無断で押し入ったような居心地が悪さを感じて賢治は一声掛けた。 「すいっ、ませーん、まだセールやってますか?」  その声に反応するように、ヒョイと作業服の不精髭の生えた中年の男が顔を出した。   歳は四十前後で、ここの店主だろうか。 「……あ、あぁ、吃驚したァ。やってますよ、どうぞ見てって」  男は座ったままなのだろうか、奥から上半身だけを此方に向けボソボソと愛想の無い声で返答した。  接客態度からしても、陰鬱そうな雰囲気からしても商売が得意そうではない。   外れを引いちゃったかな、と思いながら店内には客は一人。  このまま店を出る訳にも行かず、取り敢えず洗濯機を見て電池でも買って帰ろうかと思った。   先程から独特な鉄錆(てつさび)のような匂いがするが、随分と古い店舗なので腐食して居るのかも知れない。 「お兄さん、ここの人かい」 「いいえ、先週引っ越してきて……、前に使ってた洗濯機壊れたんすよ」 「あぁ、そうなんだ。やっぱりそうだよなぁ。洗濯機、奥に、あるよ、見てって」  相変わらず上半身だけを見せて、顎で場所を示さた。  何やら床で作業をしているのかゴンゴンと音がしている。 そちらを見ると意外と真新しい黒の洗濯機が置いてある。  外れとばかり思っていたが、お洒落な全自動洗濯機にテンションが上がりそれを見る。 「中、見ても良いっすか?」 「いいよ」  男の声が先程より近く聞こえた。  洗濯機の蓋に、一瞬ぬるりとした感触を感じたが勢いで開ける。  ムッとした鉄の香り。  そこには男女の老夫婦がぎゅうぎゅうに敷き詰められていた。  『次のニュースです。○日午後4時頃、Y県S市の○□デンキで大学生の天野賢治さんが滅多刺しにされ殺害されました。 また現場には店主の近藤いさおさん、妻の可奈子さんが洗濯機から遺体となって発見され、店内で娘のあやかさんが絞殺されていた事から、逃亡した内縁の夫を全国に‥‥』  閉店セール/終    
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