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4話 踏切
香織が踏切で通過待ちをしていると、スマホ越しに言い争っている若い男が横に並んだ。
いかにも柄の悪そうな男で、絶対に目を合わせたくない。
香織は友達とLINEをしながら、なるべくあまりそちらを気にしないように視線を落とす。
(ヤバい奴きた、早く踏切あがらないかな)
男は徐々にヒートアップしてくると、踏切の脇に、何時置かれたのか定かでは無い萎れた花束をイライラとした様子で蹴った。
一刻も早くこの男から離れたいと願っているとようやく、ガタン、ゴトン、と規則正しく音を立てて電車が通過していく。
ようやく顔を上げると、まるで断末魔の悲鳴をあげているような表情をした青白く、本来目があるべき場所が、空洞になった大きな男の顔が踏切の先で此方を見ていた。
「え?」
その男の顔は、先程隣にいた男である。
香織は遮断機が上がっても、だらりと両手をたらして立ち尽くす隣の男を見る事が出来ず、大きな顔を目の前にして、その場から動く事は出来なかった。
踏切/終
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