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7話 着信
こんな話を聞いた。
K田さんは、同僚の男女混合の数名でS県にある大きな湖に遊びに行く事になった。
「実はこのグループ、会社のバスケの仲間なんてすよね。練習以外でも結構仲良くて皆で遊んでたんですけど。実は私の未来の旦那も行ってたんですけど」
K田さんのご主人は既に転職されているが、昔は同じ会社でバスケ部に所属していた。部署は違うもののバスケの練習を通して親しくなったらしい。
中の良い会社の、バスケ部仲間で車を借りてホテルまで行く事になった。当然、部屋割は男女別に分かれる事になる。
「地味な所かなと思ってたんですけど、なかなか観光と湖良かったな〜〜、近場だとあんまり行く気がしなくて。まぁ、それで私達は遊び疲れて部屋に戻ったんですけど。
その時は確か夏で、女子の部屋に集まって怖い映画見ようって言う事になったんです。あ、苦手な人は男子の部屋に避難してました。
それで、その時ちょっと昔に流行ったホラー映画がやってたんですよ」
そのホラー映画と言うのが、大まかに言うと自分の番号から携帯電話に着信が入り、その内容は自分自身の死の予言がされているというストーリーだ。
部屋に集まった数人が夏の風物詩としたその映画を楽しむ事にした。
「いや、本当に……嘘って言われちゃうかも知れないけど、映画見てる途中で私の携帯にタイミング良く着信が入って吃驚しました。
それが、非通知とかじゃないんです。ディスプレイに名前とか無いんですよ。何も表示されていないの」
何も表示されていない携帯に、着信コールが入りその場は軽いパニックになった。だが、映画とは違いK田さんを初め、誰も電話に出る事が出来ず切れてしまった。
騒ぎが気になったのか、未来の旦那さんが男子部屋から此方の部屋を訪ねてきた。
「『何騒いでるんだよ。いやさ、あっちの部屋に居たら何人かが黒電話の音がするっていうんだ。そんなの置いてねーのに。でも俺には聞こえなくて気持ち悪いからこっちに来たんだけど、お前らどうしたの?』って。それで凄く怖くなっちゃった。だって、着信音が黒電話だったから」
黒電話の音は一晩中、男子達が泊まる方の部屋で鳴り響いて、聞こえる者は女子の部屋に避難し、聞こえなかった旦那さんは男子の部屋で爆睡していたと言う。
これは余談だが、この体験談の細かい部分を聞こうと思い、数週間後程後にK田さんに確認してみたら、彼女は全くこの話を記憶しておらず楽しい旅行だったとにこやかに話していた。
私が聞いた話は一体、誰の記憶だったんだろう。もしかしたら電話の主は話されたく無かったのか。
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