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「おーい! シア、お前どこに行ってたんだ!」
「もう腹いっぱいだよ〜」
どたどたと走ってくる音がして、街の広場にある木製のベンチでまどろんでいたシアは不機嫌そうに口を歪ませた。
「腹いっぱいって、あんたたちずっとレストランで飲み食いしてたからでしょ!」
「わりーな。で、収穫は? あの屋敷は?」
「なーんにもなかったわ、残念ながら」
「え〜!? なーんだよ。びびっときたんじゃないのかよ〜」
「しょうがないでしょ! なかったんだから!」
シアはそれだけ言うと、一人で街の出口の方へ向かっていく。それを二人の男、ハンプとダンプは地面から突き出る石に躓きながらシアの後を追った。
街の端にある古びた屋敷の噂は影を潜め、そこに手向けられたいくつもの花束が、虹へ旅立つ人々に道を示していた。
比べて、マーマーレードの中心街は騒がしかった。人々の話し声、賑わう商店の通り。その中で街一番の賑わいを咲かせるレストラン。
「アリス、色々ありがとうね」
街を離れる時が来て、最後のレストランでの仕事を終えた後。ロベルタはアリスに、意味深に片目を閉じる。
「色々って、何のことだ?」
「とぼけんなさいな。……あら、あの二人はもう帰っちゃったのかい」
「ああ、えーと、ちょっと用事があるらしくてな」
最後の日くらいゆっくり顔見たかったのにねぇ。ロベルタの呟きにアリスは申し訳なくてただはにかむしかなかった。フィーネはかばんに入ったまま出てこなかったし、ルシフェルはレストランで働いた後、少女から猫の姿に戻ってしまい、また気まぐれなのか、何も告げずどこかへ行ってしまったのだ。
「また、うちに遊びにおいで。大歓迎だから!」
ロベルタに勢いよく背中を押されて、アリスは手形がついたであろう背中をさする。ロベルタは相変わらず豪快に笑っていた。
「ありがとう、ロベルタ。また来るよ」
「ああ、絶対にだよ」
あの二人も連れてきな! ロベルタのあたたかな声にアリスは心がはち切れそうなぐらいに嬉しくなって、でもそれを表に出すのはほどほどにして笑った。
「ありがとうアリス。やっぱりあたしは妖精を嫌いにはなれないよ」
ロベルタは静かに微笑みながら、遠ざかるアリスの後ろ姿を見つめていた。
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