第二章 誘いの鏡

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第二章 誘いの鏡

 時計の針は歪んでいた。それを直す事は誰にもできず、歪んだままの針は外れた方向へ道を作っていく。 「どこにいるのかしら」  星が吐き出して沸いた湖のほとり。そこに転がる岩の上に座る女。てらりと輝く青白い肌に、水に濡れたゆるいウェーブのかかる、海と同じく濃い青色の髪をはりつけて、湖に歌声を響かせる。それは、人間も妖精も、全てのものを魅了することができる美しい歌声だった。 「わたしはいつまでも待っていた。でも、もう無理よ」  時間だけが退屈に過ぎていく。早くしないと残された時間もどこかへいってしまう。女の下半身には虹色にぬらりと輝く魚の鱗が張り付いている。その先にある尾びれを揺らすと、やがてそれは人間の両足(りょうそく)へと変わっていく。姿を惑わす魔術は足から上へとのぼっていき、肌は小麦色に、髪は金糸となる。 「待っているだけじゃダメ、探しに、奪いに行くのよ」  全ては妖精王様の、全ての心の寵愛を手に入れるため、人間共の心を食い尽くすの。 「ふふふ、早く人間共のところに行かないとね。あそこは美味しい匂いが沢山するの」  女は二足で上手にステップを踏み鳴らし、湖の上を、地に足をつけているかのように駆けていく。水面の波紋は彼女を追いかけることなく、広がって大きくなり、耐えきれず消えていく。彼女の姿も、いつの間にかどこかへ消えてしまった。 
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