春来るよ

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ある冬の寒い日のことだった。1月に入って本当に寒くなった。12月も寒いけれど、1月は雪と氷の世界にかわる。毎朝起きるのも大変だけど、思い切って飛び起きて洋服を着たら氷をつつきにいくんだ。ぶあつい氷がいつとけるのか、友達と一緒にあてるゲームをする。その日も思い切って起き上がって、友達に会いに行く約束だった。 ベッドから降りた僕は窓辺に向かう。カーテンを開ければ、雪がふんわり積もってる。ふんわりじゃなくてガチガチに凍っている場所もあるから気をつけないとね。僕の部屋からは雑木林が見える。雪をかぶった枝が寒そうだった。 一本の木のそばに女の子が立っていた。黒髪が肩までのびている女の子。どこにでもいそうな子なのに、僕はぎょっとした。服も着替えずコートをはおって飛び出した。 「そんな恰好じゃ風邪引くよ」 僕が大人の着るコートを手にして声をかけると、女の子はこっちを向いて首を傾げた。たんぽぽのような黄色のセーターは、冬じゃなくて春に着るんだと思う。あんまりあったかそうじゃない。それに白いワンピースを着ている。スカートのすそがふわっと広がって、たんぽぽの綿毛みたいに見えた。おまけに素足で立っていた。靴まで持ってこなかったと考えていると、女の子は僕が差し出したコートには目もくれずにっこり笑った。 「春来るよ。春来るよ」 女の子が歌うように飛び跳ねる。女の子が飛び跳ねたあとをみてぎょっとした。雪の上に足あとがついていないからだ。もしかして幽霊だろうか。僕が青くなっていると、女の子が歌いながら踊りだす。 「春来るよ。春来るよ」 じっと見ていると女の子の黒い髪がぐんっとのびる。一緒に背丈も大きくなってあっという間に大人の女性になってしまった。ぽかんと口を開ける僕に、真っ赤な口紅を引いたような唇が上がる。 「優しい子じゃ」 大人の声になり、変なしゃべり方をするのも気がつかなかった。僕は驚くよりも自然と受け入れていた。ただただ美しい女性がゆったり笑って舞い踊り、黄色のセーターが朝日にあたって輝くのを眺めていた。
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