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と、奇妙な事が起こった。
身体から激痛が徐々に退いていき、傷口が塞がっていくのだ。
「私が培養した緑色癒合球菌だ。お前の身体の中で繁殖し、傷付いた細胞の自己修復を促している」
青年は驚いた表情で両手を開閉し、感覚を確かめた。
細胞が超活性された事で生じた熱が、傷口から湯気となって立ち上っている。
「とは言っても、回復には限度が有る。お前の体内の魔法細菌によって、治癒菌は間も無く駆逐されるだろう。ま、無理は禁物さ」
少女は懐から煙草を一本取り出し、ふっくらとした薄桃色の柔らかい唇で咥える。
そして、浮かんでいる小さな赤光の球体の一つを二本の指で掴むと、煙草に近付けた。
と、一瞬炎が迸り、煙草に火が付く。
反して赤光の球体は水泡が弾けるが如く、消失した。
「あ、貴女は一体」
生の喜びを噛み締める事よりも、次々と引き起こされる不思議な現象に青年は魅せられている。
「ん、私か?」
美少女は小首を傾げ、唇の隙間から煙を吹いた。
月と、周囲を漂う光の球体を背景に、少女は微笑する。
「私はルーシー・アントワネット。この辺りを調査中の、只の修道術師さ」
修道術師
それは、神より人々に等しく与えられる魔法細菌を操り、分解した精霊骸を用いて『魔法』を行使する修道女。
森羅万象を司る修道術の扱いに長けた、魔胞子を滅する神の使徒である。
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