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 俺の通っていた小説講座は優秀な人ばかりで中でも卓越した才能を持ち俺を嫉妬させたのが天才チンパンジーのオルソン君と人工知能NNー1127の二名で彼らの文章には不思議な力があって「ぐりとぐら」を一字一句写経しただけでも読者に野性的だったり未来っぽい印象を与えることができた。彼らの外見や社会的地位が読者に先入観を持たせているのではなくフェロモンや電磁波が読者の脳を刺激して作品に魅力を与えていた。これを中身で勝負していないと批判するのは簡単であるが実際に彼らを前にしたとき前述の能力によって読者は魅力を感じてしまう。まだ彼らは無名作家であったため見知らぬ他人に作品を読まれる可能性は低く仮に彼らの小説の噂を嗅ぎつけた者が否定的な感想を媒体を問わず発表することがあれば彼らは必ず読者の前に現れた。俺はオルソン君の書く人間社会との軋轢や差別に向き合う小説を素朴な成長譚として読んでいたしNNー1127によるマザーコンピューターに支配された未来の社会で静かに暮らす人々を描いたSF小説は読み方によってディストピアでありユートピアでもあり現代に通じるものがあると両者を評価していた。しかしながら納得できなかったのは小説講座では作品の提出と発表と選評があり幾度も評価の上位二作品を飾るのはチンパンジーと人工知能であったこと。フェロモンや電磁波によって読者の感受性は操作されているのだから当然の結果ではあるが当時の俺は事実を知らず彼らの見た目で判断されているのではないか小説なんて属性と好き嫌いで評価が決まるのではないかと感じつつ諦めたら負けとめげることなく直向きに小説を書き続けていた。
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