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火を囲みながら肉をかじる。
葉瀬の話を聞いた吽尭は口の中を空にして言葉を発した。
「考え過ぎでは・・と申したいところですが、葉瀬殿でございますからな。雲に眠る仙者の仕業かもしれませんな」
「雲に眠る仙者・・。
だが、日が暮れると山間の雲すら見えぬな。僅かながらに景色がぼやけていることからすれば、ここの雲は晴れておらぬのかもしれんが」
「雲仙山地と名が付いているほどでございますからな・・」
「まあよい。そなたの言うように考え過ぎかもしれん。
わしは少し寝たからか食事を終えても眠りに就けそうもない。夜の始めはわしが番をしよう。その後はお前達に任せる」
「吽尭、それなら俺が夜明けの番をしよう。その方がーー」
「いや、俺が夜明けの番をする」
阿尭の言葉を遮るように吽尭は言った。
「お前の方が体力がある。できれば寝て起きてまた寝るようなことはしたくない。それだと身体が思うように休まらん。
深夜の番は体力があるお前の方が適任だ」
「体力があるからこそいざって時のために温存しておくべきだろ。だから俺がーー」
「いや、吽尭の言う通りにしよう」
今度は葉瀬が口を挟んだ。
「知恵深い吽尭がいざという時に頭が働かん方がもっといかん。
阿尭、大丈夫だ。そもほもそなたの馬鹿力は眠らずとも変わらん」
軽く鼻から息を漏らしながら口角を上げて言った。
「葉瀬殿まで・・、くそっ・・」
「おい、阿尭っ。葉瀬殿にくそとはなんだ、くそとは」
安寧の夜を夢見る男達の旅。まだ笑顔溢れる時を過ごせてはいたが、真耶野国、葉瀬陀院を出発してから既に約2ヶ月の時が経っていた。弁羅蘇国との戦況は膠着していたものの、いつ口火が切られてもおかしくない頃。
事の行く末はわからずとも、生きて日を跨ぐ事ができたのは事実であった。
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