山中の雲

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「・・ここは」  葉瀬は白い(もや)に包まれていた。少し休むだけのつもりが眠ってしまったようだった。 「阿尭っ、吽尭っ」  2人の名を呼ぶが返事がない。気づけばテントの中にすらいないようだった。 「落ち着け・・」  座を整え手を(ひざ)()えた。深く息を吸いながら目を閉じ、気を解放する。 「(しん)(みょう)()(かい)(せい)(れん)(ほう)・・真冥与戒醒連芳・・」  (きょう)を唱えるが周囲には何の変化も感じられない。 「(てん)(そん)(みん)(うん)()(みょう)(ほう)・・(にゅう)(じゅ)(どう)(そく)(どう)(しん)(ほう)・・」  空気に乗って届いてくるような声とは違った。自分の世界に直接流れてくるような、一方で自分の世界から発信しているような感覚だった。  目を開けるが白い闇は明けてくれない。  葉瀬は経を止め、この空間に(あらが)うのを止めた。再度目を閉じる。心を(しず)め、身体をその声に預けた。  その声から発されるのと同じ言葉が無意識に頭の中で繰り返される。 「・・葉瀬殿は神に選ばれることをお望みか」  経らしき言葉がいつ途切れたのかわからなかった。うたた寝していたのか、意識は別の場所に行っていた。 「神に選ばれる・・。雲に眠る力のことか。それならば必要ない」 「阿尭に尋ねていたことは違うのか・・。では何をお望みか」 「わしが望むはナリンが(のこ)したとされる力を手に入れること」 「なにゆえ」  問答は続く。 「祖国にて続く争いを()めるには武力しかない。  だが、人の力には限界がある。それを越えて力を発揮できなければその争いを鎮めることなど到底できん」 「アドレナリンのことか・・。  ナリンが消えた理由は知っておろう・・。  その力を求むるは破滅を求むるに等しい。祖国を救うつもりかもしれんが、祖国を滅ぼすことになる。  ・・やめておくがよい」 「道を(ひら)くには(ちから)を要す。しかし、その道を他者に開くには(じょう)を要す。  ナリンが忘れていた情があれば、同じ道を辿ることはあり得ん。また、皆と共に1つの大道を歩むならば、迷い泣く者など生まれん」 「・・左様か。  ならば・・」
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