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 約束された世界。  そこでは、必ず幸せになれるハズ。  今までずっと、弟と比べられて惨めな思いをして生きてきた。  でも、ガラハン国の使節として赴くその国では、この僕こそが、一番大切な存在として丁重に扱われるはずだ。  何せ、僕の機嫌を損ねたら――――辺境の弱小国に過ぎないベリック国など、すぐに潰されて併合される運命にあるのだから。  本国では、身分の低い母を持ち、外見も能力もパッとしない王子としてぞんざいに扱われる日々だったが、ここではきっと――――下にも置かぬような扱いで大切に大切に持て成してもらえる……ハズであった。  だが、 「なんと! 貴殿はアスラン王子ではないのか! 」  と、僕を迎えた貴族たちは一様に顔を曇らせた。    ◇ 「てっきり、アスラン王子が使節に赴くと考えていたのだが――」 「あの、アスランは……弟は、帝国へ留学する事になったので、こちらには僕が赴くことになったのです」  本来であれば、平身低頭にへりくだった相手に向かい、大王のように尊大な態度で『なに? 僕では不満だというのか』とでも言う所であろうが――――今までそういった場面に遭遇した試しがないので、ジュエルはヘラヘラと愛想笑いを浮かべながら口を開いた。 「ですから、今回は僕が和平の使者という使命を閣下より授かり、こうして貴国へ赴いたのだのです。古来の仕来たりにより、僕の従者はこのルーンのみです。どうぞ、これから三年間、よしなにお願い申し上げます」  本来ならば、仕来たりは所詮ただの建前に過ぎないと考えられ、王族であるならば、10人近い従者は引き連れているものである。  だが――――このジュエル・カラス・ガラハンには、本当に従者が一人だけ。  しかも、隻眼の騎士のみが同伴しただけであった。  これは、異常事態だ。
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