調教1

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調教1

「………。」 天気のいい青空の下、城下町を行き交う 人々は茶や鼠色の個性的な着物の裾を ゆらゆら揺らし歩いている。 活気と賑わいのある親しみやすい街道だ。 その間を堂々と歩く紺碧色の着物を纏った 体格のいい男は異色を放っていたが 腰に帯びた鈍色の鞘が人々の注目を逸らす。 刀を持った人間を怒らせないことは町人の 常識だ。 しかし当の男は非常に緊張していた。 道は聞いた通り、教わった通りに歩を進める。 可能であれば行かない選択肢を選びたいが… これも恋するお館様の御為(おんため)、自分のため。 その一心が男の原動力だった。 賑わう市をすり抜けて、少し湿った路地裏を 覗く。道を阻む浪人が徒党を組んでいたが 紺碧の着物を見て奴等は道を譲る。 快く通してもらうが手前で呼び止められた。 「おいお前。」 「…俺のことか?」 振り返るとゴロツキは顎を突き出して応えた。 「他によそ者がどこにいましょうか。 お前は道に迷っているのでございますか? この先は男娼のいる茶屋しか道が繋がって おりませんことよ。 それとも、なんだ。茶屋に用があるのか? 誠実そうな顔しているが、好き者なのか。」 「……別に俺が誰を買おうが構わんだろう。」 「それもそうですな。失敬。」 「………。」 手をヒラヒラさせて用無しになったようだが にやにや気味の悪い笑みを浮かべている。 男は都中に顔が割れている。 仕方無しに、僅かな銭を握らせるが 不満そうに頬を膨らませた。 「たったこればかりですかい?」 「あとはお前の片腕でいいか?」 「独り言ですよ。お通りください。」 「ふん。」 鞘に掛けた手を納めた。 広くなった道を進む。 この場の誰が信じられようか。 本人すら信じられていないのだ。 この立派なお侍さん、これから茶屋で 男に触られ、女のように抱かれるために… 「快楽調教師」の元へ向かうのだ。
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