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クーリングオフは適応外
足立幸多はダン箱を抱えて階段を降りていた。
事務所内を整理していて不要になった資料を保管庫に仕舞いに行く為だ。
自社ビルである為、保管庫などと言う『もはや必要でも無いが一応資料として残しとくか』と言う資料を保管する空間があるのは有難いが、別階にあるのはいただけない。
季節は初夏。じっとしていれば肌寒くもあるが、少し動くだけで暑くなる。
果然、紙ベースの資料を詰め込んだダン箱を抱えて階段を降りている幸多の背中にはうっすらと汗が滲みはじめていた。
あっちぃ上に重っっ!
上背もあるし休日にはジムに通っているため力も無いわけじゃないが、暑いものは暑いし、重いものは重いのだ。
それでも後ちょっと。
一階と二階の間の踊り場まできて、先が見えてきたと安気になる。
気合いを入れ直し、いざ、と足を踏み出した時、下から駆け上がってきた社員と軽くぶつかった。よほど急いでいたらしく「すいませんっ」と言い捨てて、行ってしまったが。
「おわっ…!」
幸多は滑り落ちそうになるダン箱を反射的に掴み直した。お陰で資料を階下にぶちまけるという大惨事は免れたが、代わりに足が階段を踏み外した感覚ははっきりあった。
「っ…!」
前のめりになる体に従って、数段飛ばしに階段を駆け下りる。
が、ヒトの跳躍が土台重力に敵うはずもない。
確実に落ちる!と思った瞬間、幸多はダン箱を手放し体を捻った。
だだだだだ
一階フロアにて体が止まり、幸多ははぁーと詰めていた息を吐きながら目を開けた。
マジで、ビビった。いや、焦った。
上手く受け身が取れたらしく、多少の打ち身はあるものの、怪我と言う程の痛みもない。途中で手放したダン箱も上手く滑り落ちたようで中身をぶちまけることなく隣にあった。
それでも階段を落ちるという惨事に幸多がやや放心気味で座っていると不意に横から顔を覗かれた。
「大丈夫かい?」
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