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もともと、耕太たち夫婦がこのプールに来たときにいた客といえば、中学生くらいの子どもをつれた夫婦と、二十歳代くらいの男性のふたりづれだけだった。だからプールはガラガラに空いていたのだった。
それでも、妻がそのように訴えているのを無視するわけにはいかない。耕太は水にもぐって、妻の指し示したあたりをよくさがした。
やはり、だれもいない。
初夏の日差しは雲にさえぎられて、水のなかは曖昧なブルーの光に満ちている。ただそれだけで、人の姿などはない。
「だれもいないよ」
「だって、本当なのよ。本当に女が……」
水から顔を出して恵に言うと、おびえてそんな反応をする。
恵がさわいでいるのを聞きつけて、プールの監視員がやってきた。
「どうかしましたかぁ?」
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