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「あ……」  恵は、その若い男性の監視員に、自分の身に起こったことを言おうとして、口を開いたところで思いとどまったようだ。戸惑ったように、耕太の顔を見る。恵はいつでも耕太に頼り切っているのだ。  耕太は、すぐさま監視員に言い訳した。 「いや、ちょっと……妻が足をつったみたいで。プールの外で休ませます。すみません、お騒がせしてしまって」 「大丈夫ですか? 気をつけてくださいね」  監視員の手を借りて、耕太は恵をプールから上げ、プールサイドのリクライニングチェアで休ませた。 「でも、本当なのよ、耕太さん」  少したって落ちついた恵が、もう一度夫に訴えた。「本当に女に足首をつかまれて、水の中に引きずり込まれそうになったの。ショートヘアの、三十過ぎくらいの女だった。目尻がつり上がって、きつい感じだったわ。そうそう、あごのところにほくろがあったのよ」  耕太は内心でぎょっとした。それでも、意思の力でそれを押さえこみ、恵に動揺を悟られないようにした。
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