水のなかの手

２

　ショートヘアの、きつい顔の女。あごにほくろがある。歳は三十歳くらい――。

　それは耕太の前の妻、麻耶ではないのか？

　もちろん、麻耶というヒトであるはずがなかった。

　なぜなら、彼女は、耕太が殺したからだ。生命保険をかけ、保険金の受取人を夫の耕太にした上で、水に沈めて殺したのだった。警察が調べたが、事故死ということで処理された。

　葬式もすませた。

　麻耶の肉体は、もう存在しない。

　だから、恵の見た女が麻耶だとすれば、それは彼女の幽霊ということになる。

　前妻の幽霊が、いまの妻の足を引っ張ったとしたら、それはなんのためなのだろう？

　いまの妻への嫉妬だというのか？