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「きゃあっ」  突然の悲鳴に、前沢耕太は目をさました。  一瞬、自分がどこにどうしているのかわからない。  視界に広がっているのは、高い空の半分以上をおおう白い雲。  すぐに思い出した。自分はいま、入籍したばかりの妻といっしょにプールに来て、プールサイドのリクライニングチェアでうたた寝をしていたのだった。そして、聞こえてきた悲鳴は、妻である恵の声だった。  首だけ起こしてプールのほうに目をやると、恵が水のなかでバタバタともがいているのが見えた。  耕太はすぐさま飛び起き、プールに飛び込んだ。 「どうしたの? 大丈夫?」 「て、手が……女の手が……足をつかまれて……」  水のなかで恵みを抱きしめて問うと、彼女は脈絡のないことを口走り、恐怖にひきつった顔を、すぐそばの水面へと向ける。  しかし、そちらに人影はなかった。
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