1人が本棚に入れています
本棚に追加
1
「きゃあっ」
突然の悲鳴に、前沢耕太は目をさました。
一瞬、自分がどこにどうしているのかわからない。
視界に広がっているのは、高い空の半分以上をおおう白い雲。
すぐに思い出した。自分はいま、入籍したばかりの妻といっしょにプールに来て、プールサイドのリクライニングチェアでうたた寝をしていたのだった。そして、聞こえてきた悲鳴は、妻である恵の声だった。
首だけ起こしてプールのほうに目をやると、恵が水のなかでバタバタともがいているのが見えた。
耕太はすぐさま飛び起き、プールに飛び込んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
「て、手が……女の手が……足をつかまれて……」
水のなかで恵みを抱きしめて問うと、彼女は脈絡のないことを口走り、恐怖にひきつった顔を、すぐそばの水面へと向ける。
しかし、そちらに人影はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!