彼の香り

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急いで来たのか、ネクタイとワイシャツが少し乱れている。 ああ、やっぱり今日も甘ったるい香水の匂いだ。 女物の、恐らくこれは某有名ブランドのジャスミンのフレグランス。 「……違うんだよなぁ」 「何が」 「秋斗君の匂い」 「変わんねぇよ」 変わったよ、全然違うよ。 ――――私が一番愛してやまない秋斗君の香りが、変わってしまったのだ。 秋斗君に出会った時の衝撃は今でも忘れられない。 高校2年でクラス替えがあり、名簿順で席が隣になった。 初日に今日と同じようにぎりぎりで教室に来て、彼は隣に座った。 瞬間、ふわりとレモングラスと清潔な石鹸の匂い、そこに溶け込むほのかに甘い香りが広がったのだ。 高校2年生にもなると女子も男子も互いを意識しあうからか朝部活のあとにCMでも紹介されている定番のデオドラントをつける子が多い。 でも秋斗君の香りは他の子とは違う。 秋斗君自身のあまい香りが、なんとも色っぽくて。 それを隣の席で毎日堪能できるわけだから毎日ハッピーだった。 浮かれすぎて距離感が近すぎたのか数日で『これ以上近づいたら通報するからな犬』と辛辣な言葉を浴びせられたから自重したけども。 そんな大好きな香りが、ここ数か月変わってしまった。
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