彼の香り

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甘ったるい重めの女物の香水が続いたり、消毒の匂いだったり、複数人の匂いが混ざっていたり。 はじめはイメチェンかな、とかたまたまだろう、と思っていたけれど全然もとに戻らなくて。 季節も夏から秋に移り変わろうとしていた。 他のみんなはそもそも人の匂いなんて気にしてないから分からないみたいだけど、彼の香りの虜になった身としては一大事だ。 さすがに禁断症状が出そうなくらい限界。 あの香りはどこに行ってしまったのか。 「秋斗君、保健室の匂いするけどけがしちゃったの?」 HRが終わりクラスがざわつき始めた頃、その流れにのって聞いてみる。 今日の秋斗君は保健室特有の匂いをまとっていた。 それにワイシャツで隠れているけど手首にガーゼが貼られている。 「何でもないし」 「何でもなければ頻繁にけがしないでしょ」 「……新しいバイトで慣れないだけ」 一緒のクラスで過ごしていて分かったことだけど、秋斗君は器用だと思う。そんな秋斗君がバイトでけがをするだろうか。 「カムバック秋斗君のプレシャスな香り」 「口を閉じろ変態」 秋斗君は呆れたため気をはき、席を立ってしまった。 その後も隣の彼は授業中でもスマホを気にして、時折表情を強張らせていて。 これは、あやしい。 原因はなんだろう。
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