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~少年と人魚~ 【出会い】
いつも聴こえる波の音。
それはそう、僕は海辺でゴミを拾っている。どこの海でもそうだけど、ここ石浦でもペットボトルやビンなどのゴミが流れ着いてくる。
でも、島の人達やボランティアの皆が一致団結して定期的に清掃しているからここはまだ綺麗な方だ。
そんな小笠原が僕も大好きで、学校の帰り自転車で1人石浦に定期的に清掃しに来ていた。
「まったくゴミってやつは」
ゴミにため息を付き不満をこぼしながら1時間くらい拾い続け、
「ふ~、今日はこれくらいでいいだろう」
コンビニの袋いっぱいに詰めた。
自転車じゃあこれが精一杯で、それでも『細き流れも大河となる』だ。
「······綺麗だ······」
海を眺めるとそこには儚くも奥行きのある茜色の黄昏が。
僕はこれを観るためにもゴミを拾うのかもしれない。
何処までも行けそうな空、それも日が沈む。
「行くかな······」
今日のゴミ拾いに満足して帰りの方に振り向き歩いて砂の上を2歩、3歩、
ポチャンッ、
「ん?」
海の方から潜るような音、さらに、
カランッ、
足に何かあたる。
足元を見ると、
「これは、琉球葵貝、始めてみた」
しかも拾った貝はハート型で大きさは10センチ位。
「確か大きさは半分くらいだったはず······」
気になって海の方に顔を向けると、
沈んだ日の見える方に人影が。
それも上半身だけでこちらを見ている。
「キミ、そこでなにしてる」
声を掛けてみると、
「それーっ、あたしのなの~」
女の子の声、しかもこんな時間に。
とりあえず返事が来たので、
「もう家に帰った方がいいから上がってきなー」
「無理ーっ、だからあなたからきてー」
「えー······はぁ~っ、しょうがないな~」
仕方なく砂浜を歩き靴が波で濡れない程度に近づくと、
女性の姿が見えてピンクの髪に貝の水着というおかしな格好。
「ここまできたんだから、ホラッ、自分でこっちまできなよ」
「無理だよ、地上には出れないもん」
「はあ? 地上って······」
「だってあたし、人魚だから」
「はあっ?」
ケロッとした顔で何を言ってるんだと思っていたら、
「ホラッ」
尾びれが見え、
「にっ、ににに、人魚ぉぉぉーっ!」
人魚、人魚と言えば、伝説の生き物で不老不死とか不吉な者とか、あーあとセイレーンとか······まさかっ、僕は呪われたりするのか、
「ちょっと~」
いやいや、まさか······食べる、とか、
など僕の頭の中はパニック状態。
「ちょっとっ!」
「はっ」
「それ返して」
指差すのはさっきの貝で、そうなのかと手に持っていた貝を優しく投げ渡す。
「アハッ、ありがとう」
その人魚は頭のつむじの左辺りに貝を付けたけど、どうやら髪飾りらしいな。
僕は必死に気持ちを落ち着かせ、
「に、人魚さんが、どうしてここ石浦に?」
髪飾りを付け終えた人魚は、
「へ~、ここって石浦って言うんだ~」
笑顔で喋る姿は悪い人魚とは思えないが。
「たまたま来ただけ」
「え、たまたま?」
「そっ」
「······そ、そうか」
「フフッ······あっ、ちょっとっ」
見なかったことにしようとその場を去ろうとした僕に、
「行っちゃうの?」
「もうこんな時間だから帰るんだよ」
「え~そんな~」
「······他の人間に見つからずに帰りなよ」
「ちょ、ちょっと、あ、そうだ、名前はっ?」
「海田 風浜」
「カイタ フウマ?」
「······一応聞くけど、君は?」
「あたしはマリッサ」
「マリッサ――気を付けて帰りなよマリッサ」
「ああっ、フウマ君」
僕は自転車に乗り帰った······。
家に着き、食事とお風呂を済まして自分の部屋の机で今日の出来事を考えていたんだ。
「······マリッサ、人魚······どうかしちゃったかな~」
一応頬をつねってはみたが、
「夢、なわけないか、はぁー」
やっぱり痛いし夢じゃないのかと天井の方に顔を向け、
「これじゃ勉強に身が入らないよ」
頭に残る人魚マリッサに愚痴をこぼして勉強をする······。
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