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~少年と人魚~ 【泳ぐ】
――昨日の事はあったけど彼女はたまたま通っただけならもう居ないだろうしと、
「母さん行ってくる」
気分を新たに今日も午後1からゴミ拾いに向かった。
初寝浦でゴミを拾い休憩しながら勉強もしたりと充実していたはずなのに、
「······行ってみるか」
夕方に帰ろうとしたけど石浦の方面を見るとあの人魚のマリッサがなんとなく気になって寄ってみる事にした······。
自転車を降りて砂浜を歩いたけど変わらないいつもの波の音、
「······ちゃんと帰ったみたいだな」
すこし寂しい、のかな······。
「フウマ!」
「マ、マリッサ!」
彼女は岩影に隠れていた。
僕だと分かると近づいて来たので自分も濡れないのうに歩く。
「よかった、やっぱりフウマだったのね」
「はぁ~っ」
「どうしたの?」
「どうしてまだ石浦にいるんだ、昨日帰れって言っただろ」
「え~、だってフウマともっとお喋りしたくて~」
「からかってるだろ」
「ねぇっ、今日もゴミ拾うの?」
「いいや、今日はもう拾ったから、一応、来てみただけだ」
「そうなんだ~······だったらさっ、フウマの話し聞かせてよ、ゴミも拾わないなら時間あるでしょ?」
「そんなことしてる」
「いいでしょ~」
とても断れる雰囲気じゃなく彼女の好奇心旺盛な勢いと目に負けて、
「······わかったよ」
「やったー!」
「あまり大きな声を出しちゃダメだ、誰かに見つかるぞ」
「ごめん」
顔半分を沈めて謝るマリッサ。やはりからかわれているのだろうか······。
「ここで話してバレるのはまずいから」
近くの隠れやすい岩で話すことにした。
「それで、何を」
「どうしてフウマ君は、ゴミ拾いしてるの?」
「え~、それは簡単な答えだよ」
質問されつつ海を眺めながら、
「僕はここが好きなんだ、自分が生まれたこの島が」
「へ~この島でか~、綺麗だもんね~、ここ~」
彼女も海の方を向く。
「そうだろ?」
「うん」
島を自分が褒められたようで嬉しくて質問をした。
「君は、マリッサ達は違うのか?」
「うん、あたしたち人魚は1つの場所にずっと暮らすとかじゃなくて常に移動してるから、だからその島を愛するって何か素敵だなって」
「そうなのか」
いわゆる回遊魚は様々な海を泳いでいて種類としては鮪とか秋刀魚などがいるけど、人魚もその仲間のようだ。
「じゃあ、次は~」
「ちょっと待って、一方的じゃないか?」
疑問を投げ掛けたのにこのあともマリッサの一問一答は続いた······。
話に夢中なってあっと言う間に日が暮れてしまい、
「あ、そろそろ時間だし帰るよ」
「うん、寂しいけど我慢する」
「······君は」
「ん?」
「いや、じゃあ行くよ」
「そうだっ、明日泳がない? 一緒にっ」
「えっ······まぁ、明日は日曜日だし、いいよ」
「やったー!」
「ただし、見つかるなよ」
「うん、わかってる」
マリッサの提案で日曜日は僕も泳ぐ事に。
話してみると面白い子だ······。
「――お待たせ」
「なにその服?」
「ウェットスーツだよ、いくら小笠原でも12月は気温が下がるからね。今日は日曜日ということで母さんは何とか誤魔化せたけど······」
「じゃあ泳ごっ!」
「ああっ」
しかし泳いではみるも、
ザブンッ、
「さ、さすがに最初は寒いな」
風にあたるとブルッとくるので少しずつ慣れさしていく。
そうしてる間でも彼女が上がって来ないので潜ると、人間にはとても無理なほど優雅に泳いでいたマリッサ。
忘れてた、彼女は人魚なんだ。
そう思いつつマリッサの方に脚をバタ付かせると、僕の手を掴んで海の中をまるで案内するかのように進んでいく。
海中には珊瑚や、魚の石鯛や梅色疑、棘蝶々魚も泳いでいた。
1分位経つと彼女の手を両手で軽く叩き、それに気がついて彼女は手を離し僕は海から顔を出す。
「ぷはぁっ、ハァ、ハァ······」
人が居ないか周りを見渡す。
「マリッサ、大丈夫だ」
「ぷはぁっ、そうだった、人間は水中だと大変なんだったね」
「ああ、人魚のようにはいかないよ。しかし凄いな海は」
「喜んでくれた?」
「うん、あんな風に海中を観るなんて生まれて17年間で初めてだよ!」
「え、17才?」
「ん? そうだけど」
「な~んだ」
「なんだよ」
「あたしは20才だからお姉さんね」
「え~っ!」
「へっへ~」
まさか僕より年上で大人なんて、こんな子······とにかく衝撃だった。
「ほら、次行こっ、フウマ君」
「あ、ああ」
なんか対応が変わったような。でも、
今日はずっと海の中を楽しんだ······。
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