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~少年と人魚~ 【別れ】
――自転車を止めて、カゴから袋を取り出す。
今日はプリンを親に怪しまれると思いシュークリームにしたけどきっと『美味しい~』と喜んでくれるはず。急いで彼女のマリッサの元に向かった。
いつもようにゴミがまとめてあって、また彼女が拾ってくれたようだ。
「マリッサ、きょうは······」
彼女は背を向き夕日を観ているようだった。
「フウマ······」
「どうしたんだよ、早く岩影の方に······マリッサ」
振り向いた彼女は笑顔なのに、瞳がいつもと違い光っていて僕は、
「······迎えに、きたのか?」
「うん······だから······いかないと」
「そうか」
「来ないでっ!」
チャポン、足を止める。
「どうして······」
震えながら、
「あ、あたしは人魚であなたは人間、だ、だから」
「······なにを、いまさら」
砂浜に立つ僕と海に浮く彼女、
止められても僕は彼女に近づいて行く。
「あ、ああ」
下半身は海に浸かる。
それでも僕は、
マリッサを抱きしめた。
「無理して強がるなよ、マリッサ」
「······だって寂しいじゃない、離れる、なんて」
「ああ、寂しい」
「······初めて想っちゃった、自分が人間の女性だったらって」
「マリッサ」
彼女も両手で抱きしめる。
「そしたら、フウマと、ずっと一緒にいれたのに、ぐすっ」
「泣いてる?」
「泣くわけ、ないじゃん」
「僕だって、力があれば君を守ってあげれたのに」
「······気持ちいい、フウマはこんなに温かいのね」
「マリッサも、温かい······」
彼女を強く抱く、
「でもきっと出会えなかったね」
「どうして?」
「あたしが人間の女性で、フウマに力があったら」
「そうか、そうだよな。今の僕たちだから会えたんだ······でも、でも、つらいっ」
「フウマ!」
ずっとこうしていたかった。
「······もう、行かなきゃ」
優しく両手を離す二人、
「また会える?」
「······わからない、ルール破って初めてここに来たし、あたしが決められることじゃないから」
「そうなの、か。でも可能性がない訳じゃないんだよな」
「······ごめんなさい」
「ううん、僕はまた、いつものようにゴミを拾うさ······そしたらきっとまた、君に出会える気がする」
「フウマッ」
マリッサは髪飾りを外し、
「持ってて、そして忘れないで」
「忘れないに決まってるだろ、ぐすっ」
「······それと」
「ん······」
キスをする。
「······さようなら、フウマ」
「マリッサ!」
彼女は人の届かない海の中へ、
「マリッサッ!」
消えていった······。
それでも僕はずっと黄昏る海を観る。彼女の貝を握りしめて······。
このあと人魚マリッサの姿を見る事はなかったが僕は諦めずゴミを拾い続ける。
今日も聴こえる波の音に紛れて、
僕を呼びかけるマリッサを想いながら······。
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