35人が本棚に入れています
本棚に追加
1-1
2008年2月15日(金)
AM11:00
それはそれは奇妙な出会いだった。
いや、必然ではあったのだろう。
だがそれは唐突だった。
彼らにはわかりきっていたことだったんだと思うが。
俺の名はルーク。16歳。
本当はルーカス・ブレイデンっつーんだけど、まぁみんなルークって呼ぶ。
イギリスのロンドンで何でも屋――いわゆる裏稼業を生業にしてる、割とどこにでもいる不良だ。
学校は辞めた。
元々寄宿学校に行ってたが、クソ真面目で面白みのねぇ、親に言われて行かされてるだけの場所に、生きる意味を見いだせなかったからな。
知り合いのつてを使って名前を偽り、親から逃げてもう2年が経とうとしている。
まぁもうさすがに見つけ出せまい。
俺の元の名前を知る人もいなければ、調べることも出来まい。
そんなことはもう不可能だろうと思っていた。
――あの時までは
今日はどこでメシを食うか考えていたとき、袖を引っ張られて、下を振り向いたんだ。
そこにはまだ幼い子供が立っていた。
「What's the matter? Lost?」
「…」
俺が問いかけても答えない。
しかし、3人いた子供うちのもう1人が、俺に話しかけてきた。
「Hello,Harry George…No, Lucas Braden?」
「!?」
その言葉に、俺はぎょっとしたんだ。
「Oh, that reaction…Sounds light.」
歳はまだ5つくらいだろう。
俺のリアクションを見たそいつは、当たりだと言わんばかりに口の端をニヤリと上げた。
透き通るようなブロンドヘアに、青みがかった灰色の瞳――が3ペア。
同じ身長に同じ容姿。
もう消失したはずの俺の名前を、こいつらは今呼んだ。
「――何の用だ」
「よかった、まちがいないみたいですね」
やつは、俺が睨みつけながら問いかえしても、全く意に介さず屈託の無い笑みでそう言った。
「ルーカス・ブレイデンさんですよね、はじめまして。ぼくはランディー。ランディー・アゼル・ノーランドっていいます」
「聞いてない」
「こっちはぼくのあにのイアン、おとうとのカーティスです」
「だから聞いてねぇって!!!」
俺はやつを――ランディーを、もう一度強く睨んだ。
さすがに子供相手に言いすぎただろうか。
そう思っていた。
「すいません、つい」
しかしランディーは、俺の予想に反して、頭を掻きながらはにかんだ。
俺は少しバツが悪くなった。
さすがに今のは酷かったなと思い、冷静になって話を聞く。
「…んで、なんの用だよ」
「…!」
ランディーは嬉しそうに俺を振り返った。
んだよ、これじゃ俺は、子供に大人気なく怒鳴った悪者じゃねーか。
羞恥を覚える俺をよそに、ランディーは話し始めた。
「えっと、えっとですね、その、さいきんニュースでよくみる、さつじんきのニュースがあるじゃないですか」
「…あぁ、あるな」
「それの、はんにんをさがしてほしいんですー」
「へぇ、それはなんで」
俺は聞いた。
「え、それはいえないんですけど」
「じゃあ無理だな、俺は残念ながらガキからの依頼は受け付けてねーし、そもそもそれはサツがやることで、俺がやることじゃない」
どうやらランディーは、理由を聞かれるとは思ってなかったらしい。
俺はただの"何でも屋"だ。
殺人鬼の捜索もしょっぴきも、俺がやることではない。
しかしランディーは首を横に振った。
「こどもからのいらいじゃないです」
「?どういうことだよ」
ランディーは少し、迷うような表情を見せる。
「…どうしよう、ついてきてもらったほうがいいのかな」
「そうすればー?つよそうだし!」
そう言ったのは、今まで一言も発していなかった3人目。
見れば見るほどよく似た顔だ。
「カーティス、かんたんにいいますけど…」
「まよってるひまないって、父上まってる」
「…それもそうですね」
ランディーは俺に向き直って言った。
「ついてきてもらっていいですか、すぐそこなので」
「…」
正直、ついて行きたいかと言われるとノーだ。
だが、俺がノーと告げるより先に、俺の本能がイエスと答えてしまった。
「――わかった、仕方ねぇからついて行ってやるよ」
最初のコメントを投稿しよう!