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「君は"悪魔"というものを信じるか」 「…は?」  言われたことが一瞬理解出来ず、間の抜けた声で聞き返してしまった。  このデジタル化の時代に何を言ってるんだ。  まあ俺はデジタル化になんの関係もない人生を歩んできた訳だから、たいして偉いことも言えないが…  だが今なんて?悪魔? 「ああ、まぁそうなるだろう。我々の行っていることは、それくらい想像するに難しいことだ」  3つ子の父親は話を続けた。 「その昔、人の世に姿を現した悪魔は、人の心に入り込み、ときになりすまし、人々を不幸へと誘い、その悲しみや哀しみをエサとして成長してきた」  向こうは至って真面目に、この話をしている。  だが俺は、そう簡単に納得することは出来なかった。 「そんな話、にわかには信じがたいな。大体、俺自身そんなの見たことねぇし」 「それはそうだとも、奴らはだからな」 「普通?見た目が?」  そういうもんはもっとこう…変な見た目じゃないのか。  あいや、それは童話やらの刷り込みに近いか… 「そうだ、やつらは人間になりすまし、そこら中に蔓延っている」 「…証拠は」  証拠証拠と求めるのはあまり好きではないが、こればかりは聞かざるを得ない。  3つ子の父親は、深く頷いて答えた。 「最近巷を騒がせている、連続殺人鬼。あれは悪魔が起こしている事だ」 「は?」  またもや間の抜けた声で聞き返してしまった。  今の話は突拍子も無さすぎるだろ。  どうしてそこであの殺人鬼の話が出てくる? 「今日はその調査にこの子達を向かわせていたのだが…どうやら、違うものを持って帰ってきてしまったようだ」  父親のその言葉に、3つ子がギクリとする。 「ましてや見つけてはすぐさま素性を調べるなど…君には悪いことをした」 「…いや、別に、もうなんとも思ってねぇけどよ……」  その話はもう、俺の中では忘れかけていたものだ。  "悪魔"とやらの話の前では、インパクトに欠けるものになってしまったというか…  は気になるところだが。 「しかし、ここに連れてこられて、ここでこの話を聞いた以上は、ただで帰す訳にはいかない」 「!」  ――そうだった、こいつらの話が本当なら、俺はわけだ。  そんな奴をただで帰すわけねえよな。  俺は身構えた。  周囲に殺気は無いが、もし先程の話が本当で、こいつらが相当な手練なら――そうじゃないとしても。 「…君には、リンクアシスタントになってもらう」  一瞬――いや、一瞬と言わず数秒。  何を言われたのかわからなかった。  いや、そういえばそんな話をしていもしたか…  …いやいやいや、それでも意味がわからん。 「父上…!」 「やったぜー!!!」 「…うれ、しい」  3つ子はこの通り喜んでいるが。 「は?いや待ってくれ、そもそもリンクアシスタントって何だよ」 「リンクアシスタントとは、我々の味方だ」  味方??  ますます訳分からん。  そりゃあ何かと戦うには、味方もある程度必要だし、いて損はないが…  だが悪魔?と戦う術などあるのか?  いくらファンタジー好きのイギリス人とはいえ、冗談がきつすぎるぞ? 「悪魔と戦うことを選んだ先祖は、悪魔と戦うすべを開発した。それが我々"ホルダー"だ」  ――そしてその力を分け与えられ、共に戦うのが"リンクアシスタント"だと、彼は言った。  彼は終始、至って真面目だった。 「ちょっと待てよ、俺はそんな力持ってねぇぞ!?」 「申し訳ないが、君に拒否権はない。力は我々が授ける。安心しなさい」 「っ!」 「給料も弾もう、ここに住み、トレーニングを積みながら、私とこの子達の相手と、悪魔の相手を少々をしてくれれば良い」  そう言って彼は、紙を差し出した。  そこには今言った内容が書いてあったのだが… 「いっ、1ヶ月1400ポンド(約30万円)!?」 「そうだ…足りないか?」 「いや充分だ…充分多い」  驚きのあまり、変な言葉遣いになってしまった。  その日暮らしの俺にとっては、正直今までにほとんど見たことの無い数字だった。 「そうか、ならば、引き受けてくれるな?」 「…」  こんなの引き受けない訳がねぇ。  しかも宿付きときた。  もう寝床を探す手間も要らねぇ。  だが―― 「――1つ、条件があるんだが」 「聞こう」 「…俺の本名は、何があっても呼ぶな」  彼は何かを察したようだった。 「…わかった、この子達にも言い聞かせておこう」 「あぁ」  ――かくして、俺はリンクアシスタントとして生きていくことになった。  これからどんなことが待っているかもわからない。  どうなるかもわからない。  だが元々どうでもいい人生だ。  何かのためになるなら良いだろう。  そんなふうに、思っていた。  また鎖に繋がれるというのに、どこか沸き立つ気がしていたのは、気の所為ではなかっただろう。
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