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2-1
左胸と右手の甲、そして足首に刻まれた、金色と銀色と紫色の印が、淡い光を放ちながらその"力"を発現する。
正直、こんなことになるとは思っていなかった。
昨日こいつらに出会ったあと1度街へ戻って、あるかないかぐらいの自分の身の回りのものを持ち、この屋敷に戻ってきた。
その後、休めと言われて案内された部屋は、今までに見たことの無いくらいだだっ広い部屋で、俺が
「広すぎだろ…これほんとに1人で使っていいのか」
と問うと、
「あぁ、あいにく今空き部屋がここしかなくてね。隣は食堂と、その反対側は子供たちの部屋になっている。ドアを出て向かいは私の寝室だ」
と言われた。
3つ子の部屋はこれよりでかいと言うのだから驚かざるを得ない。
そして今朝、その"力"の洗礼を受けた。
悪魔と戦うための、"力"。
正直疑い半分だったが――これはやばいぞ。
何がどうやばいのか、説明する語彙がないのが悲しいが、これはさすがに人知を超えている。
まず"ホルダー"が力を発するのに必要な"キー"は、物理法則では測れない。
が、そこに存在し、視認できる。
「人間が作ったというのに、物理法則で測れないというのも、なんとも皮肉だがな」
と言うのは、3つ子の父親――アイン・アゼル・ノーランドだ。
"キー"には色が存在し、この家には金、銀、紫のキーが存在する。
「私は金しか使えんがな」
アインはそう言ってはにかんでみせた。
キーには向き不向きがあり、色んな色を使える人間も居れば、そう出ない人間もいるとか。
「ぎんのキーはおれがつかってるんだぜ!いいだろー」
そうやってけらけらと笑うのはカーティス。
「ぼくもむらさきもってますよ〜」
と、にこにこして言うのはランディー。
「イアンだけ持ってねぇのか」
俺がそう問うと、イアンは静かにアインの方を指さした。
「…オレは、父上のもらう。あれ」
どうやら、アインのキーを受け継ぐらしかった。
そして、そのキーをもつ"ホルダー"が味方にし、力を分け与えた存在が、俺のような"リンクアシスタント"ということらしい。
その目印は、体に彫られたタトゥーのような紋様だ。
鼓動を打つように波打つ淡い光を放ち、強く力を発現すればするほど、美しく輝く。
「ふむ、ルーク、君は飲み込みがはやいな、教えるほうとしてもとても楽だ」
アインはそう言った。
俺は正直比べる対象がいないから分からないが、どうやら相当早いらしい。
俺の訓練に付き合うランディーたちも、目を輝かせていた。
思考を全て手先に集中させ、力を制御し、金を扱う。
色からインスパイアされた能力は、ホルダーが具体的に可視化し、それと同じものがリンクアシスタントにも与えられる。
この場合は金だ。
金色の鍵だから、金だ。
ほらあれだあれ、学校行ってねーからわかんねーけど、周期表?だかに載ってるやつだ。
売ると高いやつな。
まあ深いことは考えない方がいいか。
単純に、金を造形する。
それだけの事だ。
「イメージ出来りゃなんとでもなるだろ、こんなの」
「君みたいに単純とは行かないのが常だよ」
「バカにしてんのか」
「褒めてるのさ」
アインはそう言って笑った。
どう見てもバカにしてんだろ。
付き合いは短ぇが、それくらいはわかんだからな。
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