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プロローグ
・
身体の上にある心地良い圧迫感と、
首筋に感じる吐息。
幸せを感じるこの時が好き。
ずっとこうして抱きあっていられたらと
いつも思う。
あ…
身体の上から温もりが消えた。
ゴロンと隣に寝転んで、フウッーと吐息を漏らす。
『ごめん。なかなか会えなくて。』
私の髪の毛を優しく撫でながら、申し訳なさそうに言う。
「仕方ないよ。カズの仕事は私と違って定時に終る仕事じゃないもの。
こうして会えたんだもん。十分だよ。」
『ん。ごめん。最近ちょっと忙しくって。
次はいつ来れるかわかんない。』
「そう.....。」
そうなんだ…
付き合い初めた頃は、少し時間があれば会いに来てくれたのに‥
今はあの頃に比べると、カズは何倍も忙しくなった。
付き合いも増えたみたいで、時間が会っても会えない時もあって、最近は一ヶ月平気で会えない事がある。
本当は、夜中でもいいから会いに来て抱きしめて欲しい。
だけど、カズにも自分の時間は必要だし、
身体を休める時間だって必要だから、
会いたくてもわがままは言っちゃいけないと、自分にいいきかせてきた。
愛を疑ってるわけじゃないけど、
カズは余りにも有名になりすぎて、
会えない時間が不安を増長させる。
だってカズは…
藤原和臣は芸能界で生きている人だから。
ねえカズ…
知ってるんだよ私。
カズが綺麗な女優さんと何回も噂になってた事。
カズは何も言わないし、当たり前のようにここにやってくるから、私は気にしないようにと自分に言い聞かせてるけど。
久しぶりに部屋に行った時に、これ見よがしに女の痕跡があった時もあるんだよ。
本当はね、凄く不安で苦しいんだよ。
だけど嫌われたくないから、私は平気な顔をして、今日もききわけのいい女を演じてるの。
「大丈夫だよ。私も最近は仕事を任されて忙しいから。」
本当の気持ちを隠して強がってみせる。
カズに余計な負担をかけちゃいけない。
こうして抱き合えてる幸せ。
今は、私だけの藤原和臣だから。
何度も何度も自分に言い聞かせる。
『そっか... 千尋も総合商社の主任になったんだもんな。仕事を頑張らなきゃだよな。』
カズはホッとした顔で、私の髪の毛を撫で続ける。
ねえカズ?
私が欲しいのは、そんな優しさじゃなくて、
貴方の愛なんだけど…
カズの気持ちはどこにあるの?
私はカズのなんなんだろ。
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