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その7 夢から醒めたのに
目が覚めると真っ白の毛皮が目に入った。大福が背中を向けて、ぼくの胸の上に乗っているのだ。
「くっ……苦しい……下りて大福!」
思わず寝返りを打つと「ニャオ!」と鳴き声を上げてベッドから飛び降りた。
深く呼吸をしたあと、あわてて携帯電話を確認した。ほんの数十分のうたた寝だったらしい。出勤時間までまだ余裕がある。枕の横に読みかけの時代小説があった。侍姿はこれのせいか。
胸を押しつぶされた感触がまだ残っている。さすって深呼吸をしていると大福が膝の上に乗ってきた。
「いらっしゃいませ」
言ってみたが大福は無反応だ。そりゃそうか、変な夢を見たな。
「さあ……今日もがんばりますか。大福、『NYAO ちゅるちゅ~る』食べる?」
大福はしっぽをビビビっと振るわせて「にゃおーん」と鳴いた。週に二回はあげられるように仕事、がんばるかな。
***
「いらっしゃいませ」
今日も笑顔でレジ打ちをする。朝から長蛇の列でもめげたりしない。
列の中に分冊百科のおばあさんがいた。大福はいないけれど、例の手提げ袋からチラリとブランケットが見えた気がした。
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