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その3 カードはややこしい
「ポイントカードはお持ちかにゃ?」
大福の接客にもずいぶんなれた頃、クレジットカードのあとに株主優待カードを出した六十代のお客さんがいた。
持ち株数と購入金額の割合に応じて年に一度キャッシュバックがある仕組みなのだが、専門店は現金払いでしかキャッシュバックがつかない。直営店ではどんな支払い方法でもキャッシュバックがあるのでいつも説明に苦慮する。
「申し訳ございません、こちらは現金でのお支払にキャッシュバックがつくのですが……」
「え? だからカード払いよ」
「でしたらこちらはお通しが出来ないのですが、よろしいですか?」
「はい? 前、使えるって言ったわよね?」
どこの誰が言ったのか知らないが、それは飲み込んで笑顔をキープする。
「例えばですが、このクレジットカードにはポイントをつける機能もございますので、現金でお支払いいただいてポイントとキャッシュバックをつけさせていただくと……」
「だからカード払いって言ってるでしよ。話のわからない人ね!」
「でしたら株主優待カードはお返し……」
「どっちも使うって言ってるでしょ!」
困った、どう説明すれば伝わるんだろうと二枚のカードを見て途方にくれていると大福が首をひねった。
「カブヌシユウタイってなんにゃ?」
「この会社の場合、持ち株数と年間の購入金額でキャッシュバックが決まる制度だよ」
「キャッシュバックってなんにゃ」
今度はおばさんを見て言った。おばさんは説明できないのか困った顔をした。早く説明しなさいよとぼくに無言の圧力をかけてくる。
「えっと……例えば大福が毎日食べるカリカリとウェットフードを買うたびに株主優待カードを通すと、年に一度『NYAO ちゅるちゅ~る』が何本かもらえるってことだよ。何本もらえるかは持ち株数と買い物金額で変わるんだけど……」
「にゃんと!!」
大福は急に立ち上がってしっぽをピンピンに立て、おばさんに迫った。
「それはお得にゃ! 現金で支払うべきにゃ! ポイントをつけて『NYAO ちゅるちゅ~る』もいただくのにゃ!」
獲物を追いかけるときみたいに瞳孔が全開になっている。あまりの興奮した様子におばさんは「ええ……そうね」と言って一万円札を出した。
大福は満足げに「ありがとうございますにゃ」と言って香箱座りに戻る。
あのね、大福が『NYAO ちゅるちゅ~る』をもらえるわけじゃないんですよ。
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