封印

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 その扉を決して、開けてはならない。  その扉の向こうに、行ってはならない。  物心付いた時から、そう言われていた。そう、教え込まれていた。だからそれは、俺にとっての「常識」だった。家の中で、守るべき戒律だった。  しかしやがて、そこにほのかな疑問を抱くようになった。最初は、いわゆる反抗期ってやつに入ったせいもあったかもしれない。親から一方的に言われたことを、なぜ守らなければいけないのか? という、反骨心みたいなものだ。  だが、反抗期の年齢では、まだ立場的に親の方が「上」であることも確かだった。俺は反抗心を抱きつつ、扉を開けることは叶わなかった。逆らい続けることは出来なかった。それでも胸の奥に、何かしこりのようなものは残り続けた。  扉を開けると、何が起こるのか。あの向こうには、いったい何があるのだろうか……?  俺の中でその想いは、耐えることなくくすぶり続け。そして徐々に徐々に、少しずつ。しかし確実に、大きくなり始め。次第にそれは、俺にとって果たすべき「命題」とも言えるようになっていった。  いつの日か、きっと。あの扉の向こうへ。そう願いつつも、そんなチャンスはなかなか巡ってこなかった。扉にはガッチリと鍵がかけられていたし、父親か母親か、もしくは兄弟の誰かが、しっかりと見張っていたのだ。3人兄弟の末っ子である俺にとっては、兄貴達に逆らい目的を達成しなければならないという現実も、大きく立ちはだかっていた。  反抗期の頃に、なぜ扉を開けないのか、開けてはいけないのか? と、俺がひと悶着起こしたせいもあるだろう。今は誰かが始終、その扉の「見張り番」をしていた。しかしまたその事が、俺の中の想いを増幅させた。  そこまでして「守るべき理由」とは、いったい何なのだろう。そうまでして見せたくないものとは、行かせたくない理由とは、いったい……?   
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