Her sorrow

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 この暗き世界で彼女は一際美しく輝き、一方でとても疲弊しておりました。  そもそも彼女と称する事自体が正しいのか分かりかねます。それは恐らく誰にも分からぬでしょうが便宜上ここでは彼女と致しましょう。  その彼女を周りの仲間たちは心配そうに見守ります。近くの仲間が見かねて言いました。 「ねえキミ、翁に相談したらどうだい」  翁はこの世界の長たる存在です。彼女は気が引けましたが周りに説得され心を決めました。翁に呼び掛けます。 「翁、わたくしはどうしたら宜しいのでしょう。わたくしはわたくしの意志に反して弱って参ります。わたくしを神や母と崇めながらもどんどん汚されてゆくのです。しかしわたくしは怒ることすら出来ません」 「どうして出来ないのかね、美しい子」  翁が訊ねます。彼女は「嗚呼」と悲痛の声を上げ身を震わせました。 「それをわたくしに問うなど翁、貴方はなんと残酷でございましょうか。しかしお答え致します。わたくしは数多の生命を抱えているのです。わたくしが怒ると云うことは即ち彼等を危険にさらすと云うこと。わたくしにはとてもとても出来ません」  嘆き悲しむ彼女に兄弟が「ねえ優しいキミ」と声を掛けました。 「キミが出来ないのならボクがやってあげよう。ボクはキミに寄生する手前勝手な輩を赦せない。それに、キミとボクは離れゆく運命だ。遅かれ早かれ同じことだよ」  兄弟の提案に彼女は仰天します。追いすがって懇願しました。 「なんてことを。いけません、これはわたくしの問題なのです。いけません。それは断じていけません」  兄弟は目を閉じ、静かに引き下がります。「ふぅむ」と翁がゆるりと口を開きました。 「ならばどうするかね。美しき子」  彼女は暫し黙り、憂い顔で、しかし強き意志を持って確かに言いました。 「ええ、翁。わたくしは怒ろうと思います。わたくしにもわたくしや兄弟を護る権利はある筈です。わたくしに巣食う者らに―――鉄槌を」
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