魔法少女マヂカ

１６『友里の事情』

魔法少女マヂカ・０１６
『友里の事情』語り手・マヂカ　　　　　

　焦らずにいこうということになった。

　パンダ橋で出くわしたブリンダも、わたし同様、監視役のガーゴイルに相談していたんだ。

　ガーゴイルもケルベロスに負けない美少女に擬態していて、互いに恥部を見られたように狼狽えていしまった(^_^;)。

　やつも神田明神に言われて焦っているんだ。

　体育の授業が終わった更衣室、友里に小さな不幸が降りかかった。

「……しまった」

「どうかした？」

　人のいいノンコが気づいた。

「えと……ホックがね(^_^;)」

　スカートを穿こうとしたらホックが外れてしまったのだ。

「友里、太ったんでないかい？」

　糸一本でぶら下がっているホックを検証して遠慮のない清美が推測する。

「裁縫セットあるけど、教室だよ」

「取りに戻ってたら間に合わないね(-_-;)」

　運悪く、授業の後始末を頼まれていたりして、わたしたちは最後になってしまっていたのだ。

　もう二三分で鐘が鳴りそうだ。

　ホックの壊れたのなんて、魔法であっと言う間に直せるんだけど、正体を知られる恐れがある。

「わたし持ってるよ」

　裁縫セットだけを魔法で出した。

「どれどれ……」

「いったん脱ごうか？」

「だいじょうぶ、このままでいける」

　時間が迫っているので、そのまま一気にやる。

　せい！

　ダダダダダダ

　おおーーーー！

　三人が歓声を上げる。

「「「すごいよ真智香(# ﾟДﾟ#)！」」」

「あははは……裁縫とか得意だしぃ(n*´ω`*n)」

　うっかりミシン並のキレイさで縫ってしまった。

　料理に裁縫、なんだか家庭科のエキスパートになってしまいそうだ……こんなことで目立ってどうする！？

　気を付けろ、わたし！

「ありがとう、真智香……」

　お礼を言ってくれるのだが、ちょっと屈託あり気に見える。

　で……つい、心の中を覗いてしまった。

　両親と妹の姿が浮かんだ。

　父親と妹は血縁であるが母親には無い……母親は先月やってきた父の再婚相手なんだ。

　友里が母親をイメージするときにカッコつきの（母）になるのは、そういう事情があったんだ。

　母親が、お弁当を作ってくれるので、それまでの食堂利用をやめて、わたしとお弁当を食べるようになったんだ。

　ノンコと清美も付き合ってくれるようになったが、料理のスキルが無い……その結果、調理研究部を作ることになった。

　女子の付き合いと言うのは大変なのだなあと思う。

　廊下を歩いていると、中庭にケルベロスの気配を感じた。出てみると、本来の黒犬の姿で植え込みに隠れている。

「なんなのよ？」

「喜べ、友里のスカートを直してやって善行ポイントが５上がったぞ」

「え、あんなことで上がるんだ！　学校中のスカートやらズボンを直したら、もっと上がるのかなあ！？」

「そんな上手い話はないだろう、どうも友里の屈託やら問題を解決するとポイントが高いみたいだぞ」

「そうか！」

　放課後、日暮里の駅で「また明日！」と分かれてから、こっそり友里を付けて行った。

　友里は、大塚で降りて東池袋の方へ向かっていく。情報としてはとっくに知っているんだけど、その屈託有り気な歩き方を見ていると、ちょっと重症のような気がしてくる。

　立ち止まった……だけではなく、横の道に入ってしまったぞ。

　なぜだ？

　あ……向こうから母と妹が歩いてくるんだ。

　なんで逃げる？　

　背中を見せた友里の心を覗くと……嫌っているわけではない。

　そうか……そうだったんだ。

　二人の前で『いい娘・いいお姉ちゃん』を演じるには準備が要って、ストレスがあるんだ。

　友里の追跡を中断して、母と妹を観察する。

　妹は、良くも悪くも剥き出しの性格で、最初こそギクシャクしていたが、本音で付き合っていたからだろうか、今では実の親子のようだ。

　母親が知り合いと出会ったようで、同年配の女性と立ち話を始めた。

　ワンワン

　妹は、女性が連れている犬と戯れ始めた。こういうところは天然の子のようだ。

「あ、わんこ！」

　犬がなにかに気をとられたのか、急に走り出す。ゆるく持っていたせいか、リードが手から離れて犬は道の真ん中に飛び出した。運悪く、前から軽ワゴンが迫って来る！

　キキーーー！！

　犬は駆け抜けるが妹は間に合わない。

　判断と同時に体が動いた！

　セイ！

　ジャンプして妹を抱きかかえると、クルクル二回転して道の端っこにたどり着き、事なきを得た。

　成り行きと偶然の反射行動で妹を助けたが、ちょっとこじれてしまうことになった……。