039『大雨の来訪者』

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039『大雨の来訪者』

魔法少女マヂカ・039   『大雨の来訪者』語り手:マヂカ    よく降るなあ……ゲフ。  タンクトップに突っ込んだ手で、ポリポリ背中を掻きながら姉の綾香が呟く。ラフな短パンで胡坐をかいているものだから下着が丸見え。  風呂上がりとはいえ、女を捨てたとしか思えない寛ぎようだ。 「もうちょっと、おしとやかにしなさいよ」 「ああ、すまんすまん。仕事で畏まってると、疲れや凝りが溜まりまくっちゃってさ。まあ、自分ちの風呂上りくらいは大目に見ろ」 「ったく……」  姉といっても世を忍ぶ仮の姿、本性は魔王の使い魔にして地獄の番犬ケルベロスだ。一日中畏まってもいられないのは分かるんだけど。まあ、こういう愚痴がでるのも、本物の姉妹の感覚になってきたと言えなくもない。 「百万人に避難勧告だって、ったく、異常だね……真智香、ビールとってえ」  飲み干した空き缶をプルプル振って催促。 「自分でとんなさいよ、そこからなら、立ち上がって三歩で冷蔵庫」 「立ち上がんのがめんどくって」 「グータラしてっと、義体の美貌にも影響出ちゃうわよ。美人でしっかり者の綾香さんなんだから」 「やれやれ……」  プータレながら、三歩のところを五歩かけて冷蔵庫を開ける綾香姉。  カチャリ。なぜか、開けたところで固まってしまう。 「あるでしょ、奥の方に二缶ほど……」 「……いま、よからぬ者がマンションのエントランスを開けた……来るぞ!」  言うが早いか、綾香姉はケルベロスの本性に戻り、開け放ったベランダから飛び出した。侵入者の背後を突くつもりだ。  入れ違いにうちの玄関が開く音がした。むろん綾香姉ではないし、ドアには二重の鍵とドアチェーンが掛かっている。 「だれだ!?」  さすがに身構える。 「やあ、お久しぶり」  気楽に毛むくじゃらの手を挙げたそいつの後ろで、綾香姉が――おまえかあ――という顔で立っている。 「大統領は交代したんだろ?」 「ぼくは優秀だから再雇用さ、共和党だしね」 「勝手に人の家に入って来るしなあ、おまえにかかったら、魔界の鍵もかたなしだ」  ドアノブをカチャカチャさせながら綾香姉がぼやく。  そう、この世だろうがあの世だろうが、こいつに掛かればどんな鍵でも無効化してしまう。  そいつは、ドラえもんと同じ身長、同じ体形のテディベアであったりするのだ……。 「テディベアが、なんでお迎えなんだあ!?」  テディベアのオートマルタ(自動運転の丸太)に跨りながらモフモフの耳に怒鳴ってみる。 「緊急事態なんだよ、ベースとメンバーのリンクも済んでないんで、オールバリアフリーのぼくが招集係をやってるわけ」 「なんの招集よ?」 「特務師団さ、緊急招集なんだ」  そう言うと、オートマルタは助走を終え、雨雲が低く垂れこめる空に飛び上がった。
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