044『阿部晴美の仕事が増える・1』

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044『阿部晴美の仕事が増える・1』

魔法少女マヂカ・044   『阿部晴美の仕事が増える・1』 語り手:阿部晴美    講師を長く勤めていると独特の勘が働く。  この先生は休みそうだとか、この生徒は留年しそうだとか。  まあ、岡目八目的な勘だ。  岡目八目とは、将棋を指している本人たちよりも、はたで見ている者のほうが八目先の手まで見えてしまうという意味だ。  二年B組の担任、田中先生がグロッキーだ。  夏休みまでもてばいいと思ったが、今朝教頭を通じて校長室に呼ばれた。 「阿部先生、申し訳ないが、B組の担任代行を頼まれてくれないか」 「ご病気ですか田中先生?」 「肝臓を傷めて、とりあえず半年の病欠です」 「……ですか」  心配と安堵両方の気持ちが湧いてくる。  心配は——学校大丈夫か——という気持ち。  すでに、二人の先生が病休と育児休暇に入っている。長欠の先生が出ると講師が穴埋めに入るが、やはり本職ほどの仕事はできない。ま、わたしごときが気を回しても仕方がないんだけど、心配にはなる。将来本職になるためにも現場を心配する気持ちは持っていたいと思う。 「でも、副担任の三橋先生は?」 「阿部先生にお願いしたいんだが」  三橋先生には故障があるんだろうが 聞かないほうがいいというオーラを校長に感じる。  安堵のほうは収入だ。  国語の講師は十一月に切れてしまうので、年末のボーナスはもらえない。担任代行に入れば任期は年度末までなのでボーナスは保証される。  あ、もう一つ確認しておかなければ。 「教科は、国語と社会の兼任ですか?(田中先生は社会科のはずだ)」 「国語は非常勤講師の先生に来てもらいます。先生には世界史を持ってもらおうと思ってます」 「承知しました」  免許は国語、地歴、公民、保健体育の四つを持ってるけど、一教科に絞ってもらえるのはありがたい。 「それでは、試験明けの授業からお願いします」 「承知しました」  重ねて承知して校長室を出る。  世界史なら受験科目でもない、気楽に世界史のエピソードのアレコレを語ってやればいいだろう。  間もなく夏休みでもあるし、調理研の三人娘と調理実習でもやるか……。  鼻歌交じりで昼食に出る。  いつもは、学食のB定食あたりで済ますのだが、年末のボーナスが確定したので、外に食べに出る。駅前まで出れば、安くて美味しい店がいっぱいある。吉野家の新メニュー『牛丼超特盛780円』を試してみようか!  吉野家に向かって足どりが速くなる。 「わたしに奢らせてもらえませんか」  後ろから声がする。 「あ、あなたは……」  それは、阿佐ヶ谷の自衛隊メシで一緒になった来栖一佐だ。  ただの幹部自衛官ではないことは薄々承知している。 「ご承知のようですな……あなたに特務師団の臨時教官をお願いしたい」  な、なんだと!?
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