001『渡辺真智香を認識 要海友里の場合』

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001『渡辺真智香を認識 要海友里の場合』

魔法少女マヂカ・001『渡辺真智香を認識 要海友里の場合』   ☆要海友里(ようかいゆり)の認識  券売機の前まで来て気づいた……今日からお弁当だったんだ。 「ごめん、すっかり忘れてた!」 「あ、そっか、そだったよね」 「……」  ノンコは直ぐに分かってくれたけど、清美はちょっと嫌な顔をした。  友達付き合いを優先するならお弁当は頭の隅に押しやって、ノンコと清美といっしょにお昼する。そいで、お弁当は放課後にでも食べて帳尻を合わせる。ふつうの女子ならそうするだろう。わたしだってレギュラーな事情ならそうする。  でもでも、お弁当を先延ばしにして放課後食べたとすると、晩御飯が食べづらくなる。晩ご飯の箸が進まなければ(お母さん)が心配する。お父さんだって「あれ?」って思う。そういうのは避けたい。最悪な場合、放課後になって、またお弁当の事を忘れて家に帰って鞄を開けて気づくということになりかねない。こっそりお弁当を処理する方法も理論的には可能だけど、そんなズルをやって平気でいる自信は無い。なんたって(お母さん)が初めて作ってくれたお弁当なのだ。きちんとお昼に食べると言う正当な選択肢しかない。 「ごめん、また今度ね!」  二人を片手拝みにして教室に戻る。  教室はお弁当組の半分が思い思いにお弁当を広げている。半分と言うのは、教室の外や他の教室で食べてる人がいるので半分になる。たいていの子は二三人で机をくっ付けて楽し気に食べている。ひとりで食べている子はめったに居ない……が、一人いた。  出席番号一つ違いの渡辺真智香。  一つ違いなんで学年の最初は前と後ろの席同士だった。一学期の中間テストが終わって席替え、それからは近所の席になったことは無い。それまで二言三言しか話したことが無い。  なんというか、とっつきにくい。  あ、原因はたぶんわたし。  なんたって渡辺さんは美少女だ。気後れしてしまって話すきっかけがね……類は友を呼ぶというやつで、わたしの友だちは、さっきのノンコ(野々村典子)とか清美(藤本清美)とかの普通人。勉強そこそこ、容姿そこそこ、女子高生としての偏差値55くらいの人たち。渡辺さんは、いまも一人でお弁当食べているとおり、少し孤高の優等生。個人情報だから具体的な数字を知ってるわけじゃないけど、先生たちの接し方を見ても相当の優等生。偏差値マックス!  おまけに美人、チョー美人。  優等生でチョー美人なんだから、もう近寄れません!  でもって、わたしも初めてのお弁当なので、つい窓際でボッチランチしてる渡辺さんを視野に入れてしまう。  視野に入れると言っても、視界の端っこにとらえるだけ。  平均的なハイスクールである都立日暮里高校の生徒はめったにガン見なんかしないんだよ。  藤原さんは、午後の日差しの中、窓枠を額縁にして、まるでフェルメールの絵のようよ!  なんか文庫本を読みがら楚々と食べている……ん?  ガン見してしまった。  え? ええ!?  なんと、おかずの玉子焼きやらウィンナー、それにご飯の一口分が渡辺さんの顔の前にポワポワ浮いて、渡辺さんがお口を開けると、まるでデススターに宇宙艇が戻るように収まっていくではないか!  あり得ない。  思った瞬間、おかずや一口ご飯はお弁当箱の中に戻った!  でもって、渡辺さんと目があってしまった。まさにシマッタ!という感じ。 「あ、要海さんもお弁当なんだ」 「は、はいいい!」  てっぺんから声が出てしまった。 「よかったら、いっしょに食べない?」  ニッコリと、天使だか悪魔だか分からない笑顔で言われてしまった。  とんでもない物語が始まってしまった……。
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