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農薬を入手してみたものの、こんな量で死ねるのかどうか分からない。でも、あの切れ味抜群の包丁で手首を切るよりかは、少なくとも試してみる気にはなった。
多少は苦しむだろうか? できたら、眠るように死にたいと麻美は思ったが、そんな方法を探すことすらもう億劫だった。とにかくもう、疲れてしまった。
「おい、まだか?」
ぼうっとしていると、背後の自動ドア口付近から、沙希を連れた浩一に呼びかけられた。家から徒歩5分のコンビニにも勝手についてきたくせに、まるで麻美が待たせているかのように言うのだ、この男は。
「はい。今行きます」
麻美が振り返って外に出ようとした時、入れ違いに、小学生くらいの男の子がコンビニに入ってきた。手には、沙希が大好きなあのアニメのキャラが表紙の雑誌を手にしていた。
『逃げたままでいいのかよ!』
頭の中で勇者が言う。
『逃げずに戦おう!バケモノを倒すんだ!』
アニメの世界から飛び出してきたように、彼は朗々と私の脳内で叫んだ。
いやだ、どうしてこんなところで――。
「おい、何してるんだ、行くぞ」
「あ、はい。ごめんなさい」
早速不機嫌になり始めている様子の浩一の元へ駆け寄る。
「何だ、コーヒーを買ってたのか」
「はい。アイスコーヒーを…」
その時、再び勇者が高らかに声をあげた。
『さぁ、倒しに行こう!』
『さぁ、倒しに行こう!』
その言葉が、麻美の頭の中でずっとリフレインしていた。
今や、彼は私の頭の中から飛び出して、目の前でガッツポーズをして見せている。勇者が私を焚きつける。勇者が私を鼓舞する――。
『大丈夫。君ならやれる』
麻美は、にっこりと微笑んだ。
「どうぞ。喉乾いているだろうと思って、あなたに買ったの」
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