勇者の行進

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 麻美は、自分は絶対的にツイていないタイプの人間だと思っている。  先ほどのストローに、もし毒が塗られていたら。一本だけ不自然に飛び出していたのは、誰かが無作為に殺人を犯そうとしていたのではないだろうか。電車でなぜか一つだけポツンと空いている座席、バンジージャンプ、挙句の果てに飛行機。何もかも、自分を陥れるための罠に見えて仕方ないのだ。他の大勢の人に何も起こらなくても、自分にだけは、何万分の1という確率すらすり抜けて、悪いことが起きてしまう。  おかしな思い込みだということは麻美自身も分かっていた。ただの被害妄想だし、実際、やむにやまれず飛行機に乗ったことが数回あるが、一度も何かが起こったことなどない。  しかし、ツイていない人間だということだけは、確信をもって言える。  あんな男に出会って、結婚までしてしまったのだから。  
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