幻の王子様の正体 〜side隼〜

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 そうしたら侑李さんは、一瞬は驚いたような表情を浮かべたものの、僕の言い方が可笑しかったのか、破顔して涙を流しながら、僕に抱き着いてきて。 「そんなこと言ったら、ずっとずっといいように使っちゃうわよ?」 「いいですよ? 侑李さんに使われるなら本望です」 「バカ、そんなことする訳ないでしょッ? 隼は私にとって、初恋の王子様なんだから」 「『初恋の王子様』? ですか?」 「うん。いつからか忘れたけど高校生の頃まで、王子様みたいな男の子がよく夢に出てきてたの。今思えば、あれが私の初恋だったんだと思う。昨夜、隼が来てくれる間際に思い出して。その王子様によく似てたから」 「そうですか、それは光栄です。なら、侑李さんは僕にとって、初恋のお姫様ですね? 姫、これからはなんなりとお申し付けください」  照れているのか、始めこそいつもの調子でツンとした上から目線の口調で返してくる侑李さんが、あんまり可愛いことを言ってきたのでそれに便乗することにして。  王子様の如く振る舞いで侑李さんの手をふわりと両手に包み込んで自分の方に引き寄せた僕は、侑李さんの華奢な手を恭しく持ち上げて、手の甲にそうっと口づけた。  途端に、照れたように頬をほんのり桜色に染めながらはにかんだ笑顔を浮かべた、なんとも可愛らしい侑李さん。  侑李さんは顔を見られるのが恥ずかしいのか、僕の視線から逃れるようにして、僕の胸にこてんと身を委ねてきた。  そんな侑李さんのことが、どうしようもなく愛おしくて、僕は思わずぎゅうっと腕に包み込んでいた。  こうして僕と侑李さんは、この部屋で一緒に暮らすこととなった。
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