突然の恋人宣言!?

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   ほどなくして到着したのは、何故か、うちが経営する料亭『橘』だった。 「……食事するって、うちの店のことだったんですか?」 「ええ。侑李さんとの初めてのデートですし、洒落た店とも思ったのですが、侑李さんは、そういう店では寛げないかと思いましてねぇ。侑磨さんに予約を入れていただいていたんです」 「……でっ、デートって」 「何か間違っていますか? 侑李さんと僕が恋人になるきっかけとなる記念すべき初デートじゃありませんか」 「……ま、まぁ、確かに、表向きにはそうですけど。そっ、そんなことより、悪かったですね? 洒落た店では寛げない庶民の私なんかに合わせていただいて」 「そんな風に捉えられるのは心外です。”恋人のフリ”とはいえ、侑李さんは、これから一緒に時間を共有するパートナーになるワケですから。勿論、仕事も含めて。ですから、僕はただ侑李さんと、侑李さんが気兼ねなく、ゆっくりと落ち着けるところで、少しでも親睦を深めておきたいと思ったのですが……お気に召しませんでしたか?」 「……いえ、別に、そういうワケでは……」  さっきまでの怒りに加えて、醜態のせいもあり、鬼畜の言葉がいちいち癇に障って、いちいち突っかかってしまう私に対して。  あの派手なパフォーマンスでチラリと見せた、ニヤリとした厭らしい微笑を浮かべていたのが、幻だったんじゃないかって思ってしまうくらいに。  相も変わらず、恥ずかしげもなく、しれしれっとはしているけれど、思いのほか真摯な言葉を返してくる鬼畜の殊勝な態度に、なんだか調子が狂わされる。
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