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赤いサソリの二人組
イスキ村に戻る最中、何度もマクギーの顔に視線を向けてしまった。おじいちゃんから何度も言われているから分かってはいたけど。間近で見ると、やっぱりマクギーは私たちとは違う種類の生物なんだなと実感出来る。素肌の質感も全然違う様に思えるし。そう思いながらまた視線を向けると、マクギーはこちらを見ずに「俺の顔に何かついてるか?」と言った。バレバレだったみたい。身体が急に熱くなった。
「ご、ごめんなさい」
マクギーは溜息をつくだけで特に追及はしてこなかった。じろじろ見てしまった事をどう説明すれば良いのか分からなかったので、この気遣いは有り難かった。
「例の二人組だが、確かに赤いサソリの形の刺青が顔にあったんだな?」
「あ、は、はい、そうです」
「そうか」マクギーは間を空けて言った。「と言う事は間違いなくそいつらはグレイディ兄弟だろうな」
「知ってるんですか」
「有名な盗賊団の生き残りだよ。その盗賊団は全員顔に赤いサソリの形の刺青がある。それに加えてグレイディ兄弟は盗賊団の中で一番腕っ節が強い奴らだ。一度だけ奴らの剣さばきを見た事があるが相当の腕前だったな」
「で、でも、あなたも結構強いんでしょう。おじいちゃんが言ってたわ」
「さて、どうだか。あんまり期待してもらっても困るね。兄弟の剣さばきは目に見えぬ速さだった。絶対に勝てる保証は無い」
ちょっと。しっかりしてよ。不安を煽る様な言い方が気に入らなかった。でも危険な仕事を頼んだ立場として文句を言う資格は私には無い。マクギーだって好きであの二人と戦う訳じゃないのだから。そうこうしている内に、イスキ村が見えてきた。「ちょっと待て」とマクギーが立ち止まる。何事かと思った。マクギーはまだかなり距離のあるイスキ村をじっと睨む。「随分静かだな」
「どこかの家の中にいるんじゃないですか。あの二人、メシをたくさん作れとも言ってたから」
マクギーは、ふうん、と答えながらも村から目を離さない。二人組が呑気に食事をしているとは考えてない様だ。さらにマクギーは視線をあちこちに向けた。
「ど、どうかしたんですか?」
「あの二人がずっと一緒にいるとは限らない。もし別行動してたら厄介だろ。一人を相手している隙に、もう一人に後ろからブスリって可能性もあるからな」
一理ある。マクギーからしたら出来れば兄弟ふたりをまとめて相手したいところだろう。私が先に行って兄弟がどこにいるか見てこようかと提案した。
「下手な事はしなくていい。君が村中歩き回ってまた俺のところに戻るのを兄弟に見られたら一巻の終わりってやつだ」と言いつつも、マクギーはイスキ村にこのまま突入するのも気が引ける様だった。私にはマクギーを急かす事は出来ない。マクギーだって死にたくはないだろう。さっきは必死に頼み込んだけど、ここでマクギーに"やっぱり出来ない"と言われてもしょうがないかなと思う様になってきた。けど、マクギーは行くと言った。「頼みがある。俺の後ろに気を配っててくれ。背後は君に任せる」
「わ、分かりました」あんたの命は私次第ってわけ?冗談でしょ?文句を言いたいけど、あの二人の退治を頼んだ手前、拒否は出来なかった。いいわよ。やってやるわよ。あんたの背後を見張ってればいいんでしょ。簡単じゃない。ふうっ、と息を大きく吐いた。私たちはゆっくりとイスキ村の入口に向かった。途中、あの二人組の足跡と思しきものを見つけた。マクギーは足跡に注意を向けながら、前へ前へと進む。視界の隅に何かあるのを捉えた。そこで私は立ち止まった。ラチャンスさんが倒れている。畑仕事の最中にいきなり右腕を切り落とされたラチャンスさん。ぴくりとも動かない。生きているかどうか確かめたいけど、あの二人組がどこから出てくるか分からない。
「誰だ、おまえ?」
急に呼び掛けられ、ひぃっと声を出してしまった。ラチャンスさんの身体より向こう側に二人組のうちの一人がいた。
「デルバート、おまえ一人か。弟はどこにいる」
マクギーはじっと相手を睨みながら言った。デルバートの手には刀がある。下手な事をすれば、直ぐにデルバートが斬りかかってくる。その隙に弟が私たちの後ろから現れないとも限らない。けど、私はデルバートから目が離せなかった。
「何で俺の名を知ってる?前に会ったか?」
「答える必要は無い。が、おまえは俺の質問に答えろ。弟はどこにいる」
ぷくく。デルバートは肩を揺らした。こんな状況で何がおかしいというのだろうか。気が触れているとしか思えない。
「てめえが答えねえんなら、俺も答えねえ。それによお、ちょうどメシを食ったばかりだしな。食後の運動をするのも悪くねえ」
デルバートはさっと自身の刀を構えた。マクギーも自分の刀を手にした。どうしよう。私はどうすればいいの。マクギーに言われた通りに背後に注意を向ける。けど、弟の姿が見えない。どこかで寝てるんだろうか。そうだと思いたかった。デルバートが距離を詰めてきた、と思った瞬間。何故かラチャンスさんの死体が動いた。あっ。声を出す間もなく、ラチャンスさんの身体の下から二人組の弟の方が姿を現した。手には同様に刀を持っている。ひゅん。空気を裂く音。マクギーが弟に気付いたと同時に、マクギーの左腕が切り飛ばされた。
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