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グレイディ兄弟との決闘
「あれっ」
グレイディ兄弟は間抜けな声を出した。が、私も同様に目の前で起きた事がよく理解出来なかった。確かにマクギーの左腕は切り落とされた、と思ったのに。次の瞬間。瞬きを二三度した次の瞬間。マクギーの左腕は元に戻っていた。一体、何をしたのだろう。これがみんなの恐れるマクギーの能力なのだろうか。
「死体の陰に隠れるとはあまり良い趣味とは言えないな」
マクギーは何事もなかったかの様に背後の弟の方に目線を向けた。それでいて、兄のデルバートの方からも注意は逸らさない。
「チャールズ、挟み撃ちにするぞ。こいつ、かなりやるぜ」
「兄貴、そこから見えたか?確かに俺、こいつの腕を斬ったのによお!」
「いいからこいつの背後につけ!挟み撃ちに・・・あっ!?」
デルバートが弟に目線を向けた瞬間をマクギーは逃さなかった。あっという間にデルバートとの距離を詰めると、素早くデルバートの首を切り飛ばした。そのままデルバートは崩折れる。
「てめえ!よ、よくも兄貴を!」
「卑怯、だと言いたいのか?これは正当な勝負じゃない。こっちも命懸けなんでな。非があるのは油断した兄貴の方さ」
「この野郎!くたばりやがれ!」
雄叫びをあげながら、チャールズが勢い良くマクギーに切り込んできた。流石にチャールズの方が速い。ひゅん、と音がした。マクギーの両腕が吹っ飛んだ。
「やっ、やったぜ。今度こそ・・・あれっ!?」
一瞬。ほんの一瞬。マクギーの両腕は復活していた。
「な、なんで」その続きをチャールズが言う事は無かった。マクギーの刀が容赦無くチャールズの首を切り飛ばしたからだ。嘘みたいだ。ほんの数分、いや数秒であの凶悪な二人組をやっつけてしまった。
「やった!やったわ!凄い!やっつけたわ!」
「トリッシュ、そこを動くな。何かおかしい」マクギーはそう言いながら周囲を見回した。「さっきから思ったんだ。何で弟は隠れてた?まるで俺が来る事を分かってたかの様に待ち伏せしていた。俺たちが村に近付くのが見えていたのか。ここからじゃ村の外は見え難い筈だが」
何を言ってるんだろう。マクギーの言ってる事がよく分からなかった。けど、何か恐ろしい事が起こっている感じがした。
「つまり俺たちの接近を教える誰かがいたって事を意味する。村を襲ったのは二人じゃない。三人・・・いるぞ!」
「その通り」
ぎゅっと私の首に強い力が加わった。しまった。直ぐ背後に迫っていたなんて。マクギーの言う事をちゃんと実行すべきだった。どうしよう。取り返しのつかない事をしてしまった。
「面白い戦いを見せてもらったよ。なかなか不思議な能力を持ってるな」私を盾にしながら、そいつは言った。「だが遠くから見ていたからこそ分かった。おまえの能力の秘密がな。能力は鉄だ。鉄分を操る能力だな。腕を斬られたのに直ぐに再生した、と思ったのは、それが本物ではないからだ。鉄分を操るのを応用して、砂鉄を操作したんだ。そして、蜃気楼を作ったな。自分の偽者の蜃気楼だ。チャールズが斬ったと思ったのは、偽者の腕だったというわけか」
三人目はじりじりとマクギーとの距離をとった。マクギーも私が盾にされているのでなかなか手出しが出来ない。
「しかし、砂が全く無い場所に移動されたらどうなるかな?今度こそおまえ本人が相手をせざるを得ないという訳だ。ふふふ」
少し移動した先に岩場がある。奴の狙いはそこにマクギーを誘い込む事だ。
「さあ、こっちに来い。それともこのガキを見捨てるか?」
「惜しかったな。蜃気楼だと分かったところまでは良かったが」
「何・・・あうっ!?」
奴はかっと目を見開いた。私が奴の腹部にナイフを刺し込んだからだ。鉄を操る能力で砂鉄をナイフに付着させて保護色の様に隠した。だから奴は気付かなかった。
「どうして。どうしてそいつらの味方をするんだ」と言いながら奴は倒れた。「な、何でだ。おまえは俺たちと同じ・・・人間だろう。こ、こいつらは」奴は私を指差した。「俺たちとは違う。バ、バケモノだぞ!人間じゃないんだ!」
バケモノ。私が。この村のみんなが。奴は確かにそう言った。何かの冗談だろうか。確かに私たちはマクギーやこの三人とは違う。人間という生物ではない。けど、だからと言ってそれを非難される謂れはない。私たちはこの村で穏やかに暮らしているだけだ。村の外には迷惑を掛けてはいない。決して。
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