第二十四話 時間を忘れて。

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第二十四話 時間を忘れて。

 ───高度な電脳空間、仮想世界の構築。それらを可能とする技  術の発展目覚ましい近未来。人は第二世界とまで呼ばれるように  成ったそれら、仮想空間サービスを大いに満喫していた。  取り分けVRMMOと言うジャンルには多くの人々が魅了され、男女  は勿論大人子供を問わず大人気の娯楽、ビジネス、文化へと成  長。今や競争激しい一大コンテツ。  その強豪犇めくVRMMOの中でも圧倒的な精密さで仮想世界を構築  し。広く沢山のユーザーから人気を集めているVRMMO『エリュシ  オン』  其処では出来うる事の幅が広く、ゲームの主目的たる冒険だけに  留まらない。第二世界としての日常生活から視覚的会話スペー  ス。果ては企業間でのVR商談にまでも活用される事もある言うエ  リュシオン。今日も広大無辺な仮想世界では、現実から人々がロ  グインしては、思い思いの仮想体験をプレイヤーとして面白可笑  しく過ごして居た。  そんなエリュシオン内に存在する一つの町。  道を歩く空色の髪をした青年は大勢に混じり、一つ身震いをして  みせる。 「ッ。……うぅ。」  今寒気がしたのは、俺の懐がかつて無いほどに飢え切っているか  らに違いない。いやまあゲーム始めた頃に比べれば? そりゃ満  たされている方なんだけどさ。とは、とは言え、だ。感覚がもう  当時とはぜーんぜん違う。  満たされたあの重み。細かな面倒をカネで省ける便利さ。それら  を知っちまってるだけに今の身軽さ何とも寂しくて。 「そして寒いぃ~……。」  此処でマジな寒さ何て感じ無いけど。俺は気分的なモノで手を擦  り合わせながら、拠点にしている町の大通りを歩き。ゲーム内マ  ーケットのチェックを行う為行きつけの酒場へと向かっていた。  道中すれ違うPCやNPCの多くを眩しく見えてしまう、何て幻視に  目を細めながら目的地。酒場へ入店。 「! いらっしゃいませー!」  店内に足を踏み入れると何時も元気な女性NPCの店員さんが、今  日も変わらぬ元気さで一番に来店の挨拶を此方に飛ばしてくれ  た。彼女だけはどの時間帯だろうと大概姿が見えて居る事を、常  連足る俺はしっかり把握しているのだ。  その見慣れた笑顔から視線を店内へ移し辺りを少し見渡す。 「? ……?」 「……。……!」  どうやら客足は少ない様子。  イベント終了後のテンションに任せたお祭り嵐も過ぎ去り、酒場  は平常運転へと戻ったらしい。此処は普段お客さんそんな多くは  無いからね。  俺は店員さんの元気さに少しほっこりとした思いを感じつつ、客  の少ない店内を進む。目指す先はPCが寄り合うクエストカウンタ  ーでも、一階総合受付でも無く。PCが全く並ばないただ一つの受  付カウンター。 「ああ……。また来てくれたんですね……。」  対応してくれるのはフロアを担当する女性店員さん達は勿論、他  カウンターの受付さん達ともまるで雰囲気の違う一人のお姉さん  だ。  明るい色のはずのブロンドが暗く見えるのは、暗すぎる表情と醸  し出される雰囲気。後薄っすらとした笑顔? の所為かも。  彼女はこの酒場内で唯一此処、此処だけでしか会話出来ない超レ  アNPC。何故此処だけでしか話せないかと言うと、彼女の担当が  どうやらこの場所だけだから、らしい。 「驚かないでください。この一週間の利用者は今日までゼロ。そ  して、貴方だけがまた一番で唯一の利用者ですよ。ふふ……。」 「何時も通りっすね。」 「ええ何時も通り。此処が出来て私が置かれてから今日まで、ほ  ぼ利用される事の無い場所、サービスです。」  この受付で利用出来るサービスはたった一つ。ゲーム内マーケッ  トの確認だけ。  ゲーム内マーケットとは言葉そのまま、このゲーム内でPCやNPC  がアイテムを出品したりして買取が出来る市場の事だ。  マーケット機能を使えば、実際にPC同士が会って対面取引する手  間を無くし。クラウド上での取引処理が可能。ま、MMOなら大概  あるやつだね。  オンゲ経験者は勿論、そうじゃなくとも非常に重要で利用頻度も  相応と思うプレイヤーが多いはず。そう! 利用頻度の高い仕様  だからこそ! 当然それ事態が自室の端末や仮想インターフェー  スを開いても利用出来ちゃう。重要な仕様が利便性の低い訳が無  い。 「(つまり。態々ギルド拠点や酒場何かの施設に出向いて確認す  るヤツ何てそうそう居ないよって話し。しかも此処で見られるの  は一般マーケット限定だし。)」  ゲーム内マーケットにも種類がある。最初から誰もが利用可能で  制限の無い一般マーケットと。PC個人個人が持てるブランドマー  ケットの二種類。  少なくない資金を用意出来ればプレイヤーは個人のマーケットを  開く事が出来るって訳。既に無料のマーケットがあるなら個人で  持つ意味が無いって思われるかも知れないけど、自分達のモノを  持つって所にロマンがあるんだよなぁ~。まあロマンだけでも無  いんだよね実際の所は。 「(一般マーケットはそれこそ誰もが利用出来る所が最大のメリ  ットでありデメリットだったよなぁ。)」  初期の話し。  マーケットには勿論ソート機能があったのだけど……。これが細  かな設定が出来る程の物じゃなかったんだ。其処へ全てのプレイ  ヤーが、既に人気な商人ギルドやら連盟の全てを一箇所に集めた  結果どうなるか。勿論カオスが生まれてしまった。  自分たちの商品を売ろうと、利益を得ようとしたPC達の戦略。  物量で押した市場制圧、意図的な価格操作、転売からの転売での  転売、各種人員総出でのマーケットアクセスによる通信不安定化  等など。遂には情報戦からギルド同士での直接勝負、大規模GvG  へと発展しかけるも。  ゲーム内マーケット市場の混沌に事態を重く見た運営が急遽個人  マーケットの仕様発表からの音速実装。  傍観者として楽しみだった潰し合、んん! 悲しい戦争は回避さ  れる事に。  だから物売りプレイを専門とする生産系PCや鍛冶師って呼ばれる  連中は、連盟やらギルド単位で資金を出し合い。ブランドマーケ  ットを管理運営する事で、それぞれの特色を生かした棲み分けの  時代へ突入。  利用者も一箇所に押し込められた膨大な数の商品から目当てを探  す面倒の開放、実績のある連盟やギルド。贔屓にしている個人店  が管理するブランドマーケット利用へと流れる様に。  健全な競争が今日も開かれている。……表面上はね。 「(んま。本当に面白いのはマーケット利用と直接店に出向く利  用プレイヤー。何方が多いかって言うと後者って所だよね。  流石に所属、出身エリアを跨いだりってのはあんまり聞かないけ  ど。まあするプレイヤーはするらしい。手数料も高ぇだろうに  さ。)」  マーケットの良さはクラウド上での快速取引。それを無視してで  も直接お店に出向くPCが多いのは、お店に行って買った方が値引  きしてくれたりと、オマケがあるからだ。買取も当然。  マーケットの利用にはゲーム内通貨価値保守の為、手数料が掛か  る仕様ってのがある。それはマーケットに限った話じゃないけ  ど、掛かる額はそれぞれで異なってる。  町とフィールドへの瞬間移動、ポータルの利用等にも極少量だけ  ど所持金が引かれる仕様。世界観的理由? そんなのは知らん。  跳ぶのもエリアを跨ぐって成ると“ぐっ”と料金が引かれるの  で、エリアを頻繁に跨いでの跳びはよろしくない。特別な手順も  いるし。  そして引かれるそれら手数料の行き先は勿論プレイヤーでは無く  ゲームシステムに依る回収、つまりはゲームの運営側。  なので直接店に来てくれたプレイヤーにはお店側が手数料台を含  め融通してくれたりする。店側は店側で土地代などで一定量の回  収が待っているので、何方も手数料は少ないに限るって話し。  上手く出来ている仕組みで、だからこそ現実でも税ってモノがあ  るんだろうなぁ。いや価値の保守と国家運営とでは根本が違うん  だろうけどさ。  ま、このゲームにはそうした仕様が随所にある訳で。商人系PCの  皆さんはそれを『悪魔の取り分』と呼んでたっけか? 面白い言い  回しをするよなぁ。 「(だから出向くのが面倒なプレイヤーは割引無し手数料承知で  ブランドマーケットを。手数料が気になる、キャラとも直接対話  したいと思うプレイヤーはお店へと。消費者でも棲み分けが出来  出来上がっている。  現実だと今はネット通販利用者が多いけど、此方だとお店に出向  くのが多いんだよね~。損得抜きにしても。これはこのVRMMO  ならではの特色かも?)」  因みに一部アイテム。最高位レアやユニークレア等と呼ばれる種  類は売り買いが特殊で汎ゆるマーケットに出品不可。譲渡回数と  呼ばれる物が設定されてる物は回数を消費しての直接譲渡、それ  以外は譲渡不可か特別条件での譲渡だけでしか移動が出来ない。  ゲーム内通貨での融通とかね。大概回数が一と決まっているので  早々広まったりはしない。製作品、エネミードロップ品問わず最  高なそれらの品物は、その価値を中々落とさないのだ。  俺が消滅するとパニクりヤケを起こして装備品を捌いたけど、  手順が面倒なそれらレア装備は実は残ってたんだよね。いやー面  倒臭がって良かった良かった。 「(勿論今この状況でも売らないんですけどね。ひもじくとも武  器防具、レアアイテムは手放さないのだ。例え使えもしなくて  も、ね。フハハ。)」  最高レア、ユニークレアと言っても最強と言う訳じゃない。  普通にゲームプレイする上での最低限にそれらは含まれてない  ので安心。と言うかどのゲームもそうだけど、大概のモノは使い  手次第だ。其処が一番良くて、同時に一番辛い所だけどね……。  とまあ様々な理由で。町にあるギルド施設は勿論兼用酒場に置い  てある一般マーケットの閲覧サービスを、しかも人気でも無い此  処で態々利用するプレイヤー何て居ない理由(わけ)。 「本当に、此処を利用する物好きは貴方ぐらいですね。」 「でっすよねー。って訳でロメリーさん、何時ものお願いしま  っす。」 「畏まりました。」  頼むと受付のお姉さん。ロメリーさんはカウンター下から分厚い  と言うには厚すぎる一冊の本を取り出し。それを“ドガン”とカ  ウンター上へ置いては。本を此方へ少し押し寄せ。 「どうぞ。」 「どもども。さ~て今の売れ筋はなっにかっな~。」  分厚い本を適当に開く。すると中には一般マーケットで売りに出  されている商品や買取希望等がズラリと並び。本を指で弾くよう  に動かすと明記されたリストがスクロールされて行く。  身も蓋もない言い方すれば操作方法はまんまスマホやタブレット  PCに近い。動作が魔法っぽくて面白みは此方の方が上だけどね。  激しい戦場であった一般マーケットも、ブランドマーケットが出  来てからは平穏なモノで。今は大量消費が前提の物、ポーション  作成の材料から錬金術。他雑多な物に使われる、所謂素材アイテ  ムと呼ばれる物が一般マーケットの主役に。  直接店に出向くほどでも、また手数料を気にする程高額でも無い  アイテムの名がズラーリと並んでいる。  俺の目的はこの独特な雰囲気で操作出来る面白本と、攻略対象で  もある受付さん、その好感度上げの為に通っている。のだけど。 「今は本当に懐が寂しいからね。何か美味しい物、美味しい物を  探さないと……。」  とある事情で貯めていた資産の殆どを溶かし尽くした俺は、現在  金策に動かねば成らないのであった。……ぐぬはー辛っ!  はぁ。何時もは好感度の為だけに一週間に一度だけ利用していた  これを、今日は正しく本来の意味で利用するとしましょうかー。  俺がブランドでは無く一般マーケットを利用する理由は二つ。  一つはその他大勢と同様売買。もう一つはそもそもブランドの方  じゃ俺は消費者に回らざる得ないから。 「(ブランドマーケットは主に制作物が主流。制作スキルを持っ  てない、持っていても練度が低い俺みたないなのは、その道の制  作スキル探求者には遠く、遠~く及ばない。  武器やら何やらを作るエキスパート達に混じっても勝ちの目が無  いからね。)」  俺はそんな事を薄っすら考えながらも、表示される情報へ意識を  集める。  本に映し出されているのはリアルタイムでの市場。現在売りに出  されいてる物から買取希望へと表をソート。  そんで適当な買取希望を見つけては個人なら流し、希望者がお店  持ちならお店の詳細へ跳び。取り扱っている商品状況をチェッ  ク。売っている品物から買取素材のアイテムで何を作ろうとして  いるのか目星を付けたら。また次の買取希望者を探し、個人は無  視して店からの依頼等を探し回っては序に商品の在庫もチェック  だ。 「ふーんナルホドナルホド。何処の店も今ウロコ不足ってか?  最近まで皆大型イベントに集中してたし、イベント後は狩りもク  エストもって感じの流れが多いからに~。まったりの飽和期間。  皆素材集めなんかもしないよね。」  ウロコ系が必要って事で取り扱ってる商品傾向から考えると、多  分作りたいのはソレ……かな? だとしたらウロコを供給したら  次はアッチが欲しくなるだろうから、手持ちの現在資金と店売り  価格を考えて見ると……だ。 「ふんふん。今なら市場に同じ考えの競合相手も居ないみたいだ  し……うっし。久しぶりに真っ当な金稼ぎでもやるか~。」  俺は次と次を見越してはそれらをリスト化して保存。分厚い魔法  な本を閉じロメリーさんへと返却しては。 「んじゃ。またねロメリーさん。」 「またのご利用をお待ちしてます。……独りで。」  暗い受付さんの小さな礼へ軽い会釈を返し。受付を離れる。  そのまま酒場を出ては先程保存したアイテムリストを参照しなが  らこの町の店を回り。なけなしの貯金で買えるだけ素材アイテム  を購入して走り回る───  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  ───町中を駆けずり回り購入した素材アイテムを個人倉庫に全  てぶっこんだ俺は『次はウロコだ!』っと思い。ウロコが集めら  れるフィールドへと跳ぶ事に。  向かったフィールドはお目当てのアイテムがドロップするモンス  ターの生息地域で。森の中に存在する洞窟型ダンジョンを目指し  森の入口から中へ。  森のモンスターは其処まで強くないし、避けてれば問題無いヤツ  ばかり。なので難なく森を奥へ奥へと進み、目的地である洞窟型  ダンジョンの入り口前へ問題も無しに到着。  着いた俺はまず、マイサーヴァントを自室からフィールドへと喚  び出す。 『……御用でしょうか? 旦那様。』  俺の座標へ跳んで来たのは、喜怒哀楽の一切無い表情で。女袴姿  のキャラ。我が最高傑作のマイサーヴァント、ノギへ。 「此処らに簡易拠点を設営してちょ。」 『承知しました。』  指示を受けたマイサーヴァントが一つお辞儀をしては、洞窟入り  口の横。少し開いたスペースに手を差し向ける、するとその場所  に突如大きな天幕が生成される。  うーん流石ゲーム。面倒の無い設営で大助かりだわな。 「んじゃー拠点の保守と防衛をよろしくー。」 『畏まりました。』  此処のモンスターはそんな強く無いし、ノギ一人でも拠点を十分  防衛出来る筈。簡易拠点は放置してると直ぐにモンスターに荒ら  されるからなぁ。  防衛専門の召喚物とかもあるんだけど、設置に掛かる費用が安く  無い物だし手入れも必要だしで。短期滞在での運用はオススメ出  来ないんだよね。ガチの野営陣地作成とかでも無い限りは。 「(だから強いマイサーヴァントが居るならマイサーヴァントで  十分事足りるのさー。)」  等と思いつつ。簡易拠点で必要なアイテムを見繕う。  町以外、一部フィールドやダンジョン等で個人倉庫を利用するに  はこうして特定の手段を用いないと利用出来ない仕様だ。  呼び出された天幕の側で仮想インターフェースを開けば、倉庫へ  アクセス可能。倉庫から手持ちに周回用のアイテムセットを収め  て、装備品も周回特化の物へ変更。 「うっし。これで長時間周回の準備は完了。あ~……久々にマジ  な狩りするかもー。いやこの前もレア掘りしてたばっかじゃんか  俺。何だ、俺ってば結構ゲームな日々を満喫しまくちゃって  る?」  色々、と言うかぶっちゃけ死んじゃったけどさ。やっぱ楽しい日  々を送れるのかーとか、不安だった。近々で二度目の死の危機で  もあった訳だしさ。ああでも、このまま変哲も無いゲームな日々  を過ごし続けるのか……。 「……別に何も悪くねぇや。ちょっと何か足りないけど。」  ああこれは現実へのログインが切れた事で、連続ログインが途切  れた事に依る急激な冷めだよなぁ。何て、そんなブラックな例え  が頭に浮かび一人でちょっと笑う。相棒……に言うにはまだ早い  よな。あ、似たような事口走ったっけ? まあ何時かもっかい言  ったろ。へへ。  アホな事を考えながら準備の済んだ俺は、簡易拠点から洞窟の入  口前へと立ち。両手に結晶の形をした補助アイテムを喚び出し。 「攻撃力アップと防御力アップ。」  握り潰す。アイテム使用モーションにより使い切りアイテムの効  果が身体(キャラ)を包む。片手にショートソードを呼び出し、光源確保で  火蝶を身に纏わせては。 「いざ突入ー!」  洞窟内へ駆け出す。  薄暗い洞窟内を、火蝶の明かりがゴツゴツとした岩肌を照らし出  す。ダッシュで突き進む俺は視界端へマップクリエイション画面  を表示させ、通った道や見える道をオートマッピングする様設  定。  ダンジョンには時間経過、挑戦毎で内部構造の変わるタイプと  そうでないタイプがあるのだけど。此処は時間で内部構造が変わ  るタイプ。だから周回しながら最適なルートを決めないと行けな  いんだな、これが。  適当に道を走りながらマッピングされた物を確認。 「(ナルホドナルホド。どうやらこの洞窟は全体が四角い形で、  網目状に横道があるタイプだな。)」  ある程度マッピングされれば、その構造を何となく察する事が出  来る。これも幾度となく冒険を重ねた経験のお陰。  俺は視界端に表示したマップを縮小させ、中央付近は無視して外  周を回る感じで走るルートを確認。  そうして直進を続け正面に壁、左右に伸びる道を右へと進み。  お目当て以外のモンスターは全無視して探索を続ける。  すると少し開けた空間へ差し掛かった時だ。 『…グ。…ググ。』 『……ガギギ。』 『…。……。』  お目当てのモンスターを発見! 見た目は歪な骨の槍に革の丸盾  に、胸部だけプレートを装備した姿。人型だけど人じゃない。背  びれに尻尾、鱗まみれの全身。あのモンスターの名はリザードマ  ン。  此方に気が付かずノンアクティブ状態のリザードマンの集団へ、  そのまま俺は駆け寄っては。 「不意打ちだおらぁっ!」 『グ!? ……───』 『!』  がら空きの背を手にしたショートソードで容赦なくぶった斬る。  剣の軌跡には火の粉のエフェクト。  奇襲を受けた一体はそのまま倒れ込み、次に奇襲へ気が付いた  一匹へ火の粉舞うショートソードを差し向ける。 『!』 「盾ぇ? そんなのはなぁッ!」  盾を構えるリザードマンへ一歩を踏み込み、空いている左手を  その盾に添えるようにしては。 「“クラッシュ!”」 『ガ!?』  AP(アクションポイント)を消費してスキルを使い盾を弾いてやる。打ち上が  るように弾かれた盾に腕が持っていかれ、衝撃によろめくリザ  ードマン。 「からの!」  隙きが出来た腹へ向けてショートソードを突き刺す。 『! ……───』  剣を引き抜くとリザードマンの体が“グラリ”と崩れるようにし  て地面へ倒れる。勿論動かないし、死んだフリでも無い。  俺が単純に強いってのもあるけど、本来はこんなにも軟なモンス  ターじゃない。この洞窟内でも強い部類で配置されたモンスター  だしね、此処のリザードマン達って。  じゃあクリティカルでも連発したのかって? それも違うんだな  ぁ。このゲームでのクリティカル判定はプレイヤースキル(純粋な腕前)とその  行動に依存してるから、剣や銃で実際に急所部位へ攻撃を当てな  いと行けない。しかも其処からステやら何やらのクリティカル判  定がようやく始まるって仕様。  VRゲーなので攻撃判定は見た目がカス当たりすればカス当たり、  ってな具合。じゃあ何で一突きされただけで倒れたのか? ゲー  ムの世界じゃ別に急所じゃない。それでもでライフを全削り出来た  のは、俺の自身の力ともう一つ。 「ふっふっふ。」 『……。』  感情の無いモンスターへ意味もなく、いや意味は自分が強いって  高揚感を得られるし、こう言う“っぽい”のはマジな話。すると  テンションが上がる。だから俺は存分に仮想体験型ゲーの醍醐味  を味わい尽くすように振る舞う。……今って誰に見られてもない  しね。 「このショートソードには属性、種族特攻が付与されているのだ  よ君。」 『……。』 「属性は火、種族特攻には勿論爬虫類を選択。そして剣は見た目  通り斬属性。なのでー……。」 『……。』  通常モーション通り盾を構えるリザードマン。そんなモンスター  へ剣を掲げるように振り上げながら近付き。 「ああそうだ。そうだとも。この武器はなぁー……。!」 『ゲ!? ……───』  今度は盾を弾くなんて魅せはせずに、盾ごとリザードマンを斬り  伏せる。 「……お前たちだけを殺す武器、なんだよ。」  決まっ……た。ま誰も見てないけどね! 「いやー気持ち良い気持ち良い。イキるのってどうしてこう気持ち  が良いのかねぇ~い。さーて?」  俺は格下モンスター相手に強者アピを自分自身に見せては、辺り  を確認。倒されたモンスターはアイテムドロップの証。デフォル  メアイテムをその場に残し消えている。うーん爽快なり。  さてドロップ品を回収と行こうか。ああでも、今日は全てのドロ  ップ品を拾いたいので……っと。  所持品から掌サイズの、不思議な模様が描かれた木の実を一つ取  り出し地面へと放る。  放られた木の実は地面に打つかり弾けては、少しの煙エフェクト  が立ち上り。 『……。』  煙の消えた後にはずんぐりとしたリスが一匹。その場へと召喚さ  れて居た。  これはアイテム回収用として“課金をして”手に入れたペット。  アイテム回収用ペットはリス以外にも様々なバリエーションが存  在していて、例えば人気な物で言えば王道のベビードラゴンとか  ミニペガサス。親しみ深い定番物で言うならイヌ、ネコ。  PTプレイをする時などは彼等に配分方式を設定し、回収させたり  するのが普通な事。勿論自分で拾いたい人は自分で拾うけどね。  無料のモノやレンタル品もあるけど、ぶっちぎりで全てのペット  の中で不人気なモノ。それがこの『ズングリス』だ。  俺が人気や定番を無視して敢えて、敢えてこの人気の無いズング  リスへ課金したのが何故かと言えば。 「ズンズン回収だ!」 『!』  指示を受けたずんぐりとしたリスは見た目と裏腹に、軽い身の熟  しでドロップ品に近付き。ドロップ品を手にしてはあんぐりと口  を開け。 『ンゴッ。』  丸呑み。モーション的には頬袋へ閉まっているのだろうね。  でも到底頬袋には収まらないであろう槍の形でのドロップ品も一  飲みで頬袋に仕舞われるその様は。 「何時見て超ーシュール~。」 『?』  どうにもコレが世のプレイヤー皆様方には“ウケ”無いらしい。  メッチャおもしれぇのになぁコレ。見た目裏腹に素早い所とかも  良いポイント。 「よーし。では回収を任せるぞズンズン!」 『!』  話しかけるとニヤケ面で敬礼を返すこの仕草。ココもまたイラつ  くと話題のポイントらしい。俺は何かを企んでいる三下の様なこ  の笑みが、とても可愛くて好き。  不名誉な事にこの子は“絶対に課金して買っては行けないペット  ランキング・殿堂入り”の称号を持っている。ヒデェランキング  の製作は運営だったりする。  俺はそんなペットに回収を任せ、引き続き洞窟内を走る事に。  洞窟内を壁沿いにぐるりと回るように進み出会うリザードマンを  片っ端からぶっ倒す。倒す回数を重ねる度に動きを最小限に、効  率的に倒す形へとシフト。  そうして倒し、蹴散らし、薙ぎ払いながら進みゆけば。ぐるりと  回り開始点。つまり、洞窟入り口へと戻って来ていた訳。 「おー一周で大体こんなもんか。」  ステの確認、補助切れの有無や装備品の損耗具合をチェックして  は、問題無いと判断。 「……んじゃもう一週へゴー!」  ダンジョンを出ずに二周目へ突入。  周回の効率が上がってくると討伐速度にモンスターの湧きが追い  ついて来てないのか、はたまた別の所に湧きが固まってしまった  のか。旨さが下がったと感じる。  そこで視界端へと縮小したマップ拡大、周回ルートを微調整。  すると旨さが戻り俺も満足。そうして二周から三周、四周から五  周から……。と、順調に周回数を重ねては都度ルートを修正、調  整。ダンジョン内変動も予測しては遂に! 現在最適化へと辿り  着いた至高のルートを周り、回り、まわりまわりまわりマワリ続  け─── 『ッグ。ガググ!』 「およ?」  不意に一匹のリザードマンを仕留め損ねた。何故と考える前に体  が反復運動、表層記憶に刻まれた動きに従い。目の前のリザード  マンへ二撃、三撃とコンボを加えては仕留める。  んで次へと走り出す前に装備品のチェック。 「あららー……。」  仕留め損ねた理由は、どうやら特化ショートソードの品質がボロ  ッボロで、付与したカスタマイズ効果が著しく低下していたため  らしい。ついでに大分余裕を持って挑んだインベントリもそろそ  ろ満杯寸前。こりゃ一旦洞窟を出たほうが良いな。  俺は剣を放るモーションで所持品に仕舞い。敵を無視して出口目  指し駆け出す─── 「ふいーっと。別に閉塞感とかは感じないけど、やっぱ外と中っ  て区分けがされてるとなー外に出た時に気持ちが良い!」  洞窟型ダンジョンを出ては一度伸びをする。別に背骨も肩もこっ  ちゃいないし。現実の体があったとしても此処でこの行為は無駄  だ。 「だけどこの無駄な行為こそ、人には必要なんだろうね。  この俺が何気なくやっちゃうし……。うーむ不思議。」  一人適当な事を呟き。仮拠点へ戻って来た俺はまず最初にペット  へ回収アイテムを倉庫に仕舞うよう指示を出す。  仮拠点範囲内なら倉庫利用が可能なので、ペットはそれぞれ固有  モーションでアイテムを倉庫へ送る仕草を見せてくれる。  犬っぽいポチとか言う古来より伝わる伝統ネームのヤツは、その  場に穴をほって骨を埋めるモーション。夢猫ならただ丸くなって  眠り、夢模様の吹き出しが現れては、夢の中で夢猫が玉転がしの  要領で仕舞う、とかね。だからこのズングリスにも固有のモーシ  ョンがある訳で。 『ンガ。』  指示を受けたズングリスはその場で口を大きく開き、足元近くに  は青く丸い穴が現れ。 『ンガガガー。』 「んふッ。」  口から滝のようにデフォルメアイテムがその穴へと流れ落ちて行  く。んー今日もナイス謎モーション!  俺はこの時の虚ろなあの目、アレが好きなのだけど。これを野良  パ等で披露すると『え?え?』って視線が他プレイヤーから面白  いぐらい飛んでくるんだよねー。  世間から不人気と称されるモーションで道具を仕舞う我がペット  をニヤつき眺めていれば。 『おかえりにゃん、旦那様。襲撃はありませんでした。』  待機していたマイサーヴァントが声を掛けてくる。周りにPCが居  ないので、設定された特別対応の言葉でね。  俺はノギへ品質の下がった特化カスタマイズのショートソードを  手渡しては。 「ただいまにゃん。この武器のメンテやっといて。」 『承知しました。』  武器を受け取ったノギは片手で剣の切っ先を下にして持ち、空て  いた手を地面へ翳す。すると武器の真下に謎の機械的な物が急速  展開され、ノギがその上で武器から手を放せば、機械の上で武器  が浮遊。 「……。」  続いてノギは地面の機械から伸びて来たパネル画面を操作して  は、パネルが出て来たのはとはまた違う穴からノズルらしきが  出現。  ノズルは浮遊する武器の表面へ近付き、謎のレーザー照射。  刃こぼれを治すエフェクトが展開される。  一連の様子、見慣れた修復モーションを見ては。 「謎機械に謎レーザー。それを操る和装美人……。良き。」  自分の設定したエフェクトやモーションに満足感を得る。  出現した機械的な物は、ノギへ持たせているお高めなマルチーツ  ール。それを使ってノギは俺の装備を修繕してくれている訳だ。  武器防具にはそれぞれ品質と呼ばれるステータスの一つが設定さ  れていて、使えば使うほどそれらは下がる。  品質が落ちれば武器本来が持つ攻撃力や付加効果等と言ったステ  ータスも低下して行き、最終的に素手のがマシ。って位にまで効  力低下が起こる事態に。  そうなる前、或いは成ってしまった場合には町のNPCかPCの鍛冶  師へ速やかにメンテナンスを依頼するのが良い。もしくはメンテ  ナンス系スキル、道具を所持しているマイサーヴァントにこうし  てメンテを頼んだり、ね。  エリュシオンでの武器システムはキャラクターの個性を決めるス  キルツリー同様、奥深い。だから全容を把握するのが難しくて、  しかもそこに組み合わせなどの複雑さも加わったりしちゃって  まーまーまー……。ダメ押しに専用の施設や道具等が必要とくれ  ば、それらを代行してくれる鍛冶師と呼ばれるPC勢が重宝されま  くりなのも頷ける話し。  勝手な偏見だけど、鍛冶師やってるPCは基本頭が良い人が多い印  象だ。  ゲーム仕様的に他ゲーによくあるジョブとかそれに該当するモノ  はエリュシオンには無く、皆自分でそれらに当たるモノを勝手に  付けている訳だけど。  それでも共通認識で武器製作系スキルツリー特化のPCは基本鍛冶  師とか呼ばれる。そう言う傾向と文化は此処にもあったり。 「(まー鍛冶師の中にも種類があり、個人ステータス内の、呼び  名項目に鍛冶師付けないPCも居るし。分かりやすい物でブラック  スミスにガンスミス。鍛冶師って付かないと分かんねーのが大胸  筋踊る鍛冶師とか。  何だよ大胸筋が踊るって。まあ個人が好きに着けられるから  ね。鍛冶師が着いてるだけ、アレまだ良心的だった。)」  鍛冶師と呼ばれるPCは、複雑で予備知識無しでは弄れない武器の  カスタマイズを熟したり、自分で一から武具を製作したりと、正  にと言えるPC達だ。  とは言っても落ちた品質を一定量戻す事位はPCでもマイサーヴァ  ントでも物があれば出来るし。良い施設を揃えればスキル、アビ  が無くともカスタマイズ効果の付け替えは出来る。 「んま。今はカスタマイズを弄りたい訳じゃないし~っと。」  簡易拠点で倉庫へアクセスしてはノギに渡したのと全く同じタイ  プのショートソードを取り出す。同系な特化武器は三つ用意して  ローテするのが俺流。いやまあ中堅所プレイヤーなら誰しもがす  るかな? 「いよーし。んじゃもいっちょ行くぞー!」 『行ってらっしゃいませ。』  装備した剣を意味なく片手で掲げては、再び周回へと向かう。  全ては金策の為に───  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  ───気分が深夜テンションから早朝テンションへはしごしちゃ  ったりして、再びの深夜テンションへ戻ったり。  楽しいのその先、ハイを越えた無へと意識が到達。無と成り周回  を重ねるだけのマシーンと化した俺はひたすら、ただひたすらに  心を無くした機械よろしく、周回作業に従事して居た。  そんな中でふと一瞬人としての意識を取り戻し。序にと日付を確  認。 「ナルホドー……。まる三日、三日も俺は此処に籠もっていたん  ですねー。」  へー……。ふーん……。ほーん……。 「……時間感覚が狂ってるじゃねえか! おらぁ!」 『グゴゴ!?』  俺は目の間に居たリザードマンを叫びならが斬り伏せる。  熱中してしまうとついつい時間を忘れて没頭しちゃう、何て事は  ゲームに限らず誰にでもある体験で経験。勿論俺のこれもそう、  そうなんだけどー……。 「いや飲まず食わずの出さず眠らずだからね、これ。」  やっべぇーわよ。  此処にしか居ない俺は飲食はおろか生理現象とも無縁。仮想的に  食って寝れるけど出したりはしない。その現実離れした事実を改  めて実感して、独り思う。 「やっぱこの状態って周回に超便利じゃ~ん!」  好きなだけ動き遊べるんだぜ? トイレ休憩で集中が切れる事も無  いしよお! あーゲームに浸りたいと常々思っていた俺からすれば  最高の一言。 今はもうどっぷり全身浸ってるけどね、二重の意味  で。  思えば出れなく成った初日にもこんな無茶したなー。あーそのお  陰でレアも掘れたんだっけか? ホント、こうなってから心臓に悪  い事はあったけど、そればっかりじゃないね、この状況もさ。  生命が続くってだけで全部楽しめちゃう。気をつければ危険も無  い仮想世界だし。……全然物足りなさとか感じないし、うん。 「ふーでも。無心で周り続けたから、途中から意識が加速しちま  ってたね。周回を熟すだけのマスィーンと成ってたよ。んま! お  陰でアイテムも十分過ぎる程集まったし。ここらで帰っぺか  ねー。」  無へと落とした心を拾い上げ。洞窟での鬼な周回を終了とした。  洞窟型ダンジョンを出ては簡易拠点を仕舞い、マイサーヴァント  には自室への帰還指示を出し、アイテム回収に使ったペットは持  ち運び形態に再び戻してっと。 「かーえろかえーろー。」  自分も町へと帰還する───  ───町へと跳んだ俺は早速三日前に計画した金策案を実行すべ  く、まずはリスト確認して素材を欲しがっていた店を回り手に入  れて来た素材を売って歩き、町に店がない所はマーケットで。  それが済んだら次に買い占めていた素材を求める声が出るのを待  って、それを売ったらまた次に買い占めて置いた物を……。て算  段だ。勿論売る時は買った時よりもちょっとだけ高く、ね。 「こうして俺は懐を肥やすのであった。ワハハ。」  こう聞く簡単に聞こえるかも知れないけど、買取希望者が何を作  りたいかを予想出来る事前知識。そしてそれに必要な第一素材を  確保出来る戦力と、第二第三素材を集められる金と力が必要だ。  しかもこれ、ブランドマーケットでは出来ないからね。  そもそもがそれ対策で、市場を守るために各勢力は自分たちの市  場の、価格操作防止の為にガッチガチな監視付いてるし。無視し  て強行したらブランドマーケットと連盟店への出禁ペナルティが  此方に飛んでくるわで、デメリットがバカ高く付く。デメ解除に  は多額の金を要求されるし。  これが出来るのは一般開放されてて尚且素材市場と化してる一般  マーケットだけ。 「ま。やりすぎっと此方でも色んなプレイヤーから『あ、こい  つ。』的な目の着けられ方しちゃうから、出来て半年に一度。  それに読みを外すと儲け零ど頃かマイナスからのスタートだか  らねー。成功してもしてで儲けも言うほどだし。」  この方法は別段裏技でも何でも無い。ゲームをプレイして知識が  付いたプレイヤーなら誰しもが思いつく物で、正当な金策手段の  一つ。  なのだけど、主目的での素材集めと違い。買い占めとかって技を  使うと設定価格での問題が起きやすい。一般マーケットは非武装  地帯ではあるけど、その一歩外では武装した(商人ギルド)連中(連盟)が目を光らせて  いる。  だから此処で燥ぎ過ぎると他所では……みたいなね。  ずっとやれれば稼げるけど、そうは行けないのが難しい所。 「(それに先の先を読んでの買取は、他とかち合うと互いに損し  かしないし。)」  なので他に同じ考えのヤツが居ないか市場を観察して、居なけれ  ばって所。今回は狙った流れに他に同じ考えで動いてる目が無か  ったし、随分長くやってないしで。運が良かった。  今は手数料すらも惜しい状態の俺は、回れる店は回り。第一素材  を売り払いながらそんな事を考えて居た。  上手いヤツは一度に五つから六つ先の素材まで考えて買い占めと  かやるらしいけど、俺は其処まで賢く無いので手堅く三品止まり  でやる事にしている。大前提として市場大きく荒らさないのが暗  黙のルールでもあるし。 「商人ギルドは他所まで守ってるしねぇ。  とは言え近々でやってるヤツも居なかったし、これで手元がちょ  っとは潤うな。んんー……あー……。それにしても。」  店を回り終えた俺は道の真ん中で伸びを一度しては、力を抜き。 「別に疲れるとかは無いんだけどさー……。何をしたかを理解  してるからかな? 分かってる事から来る事実的疲労感と良いま  すか。そう言うのは感じちゃうんだなぁーこのキャラ()。  心が身体に影響する的な?」  万能無敵は無いってのが俺の信条。何事も何事だわな。 「買いは直ぐには出ないだろうし。うん。  昼行灯で飯でも食って、後は最高な惰眠でも貪ろっと!」  四十八時間以上フル稼働の俺は気分的な食事の為、一度酒場昼行  灯へと向かう───  ───昼行灯店内に入った俺は何処に席を取ろうかと店内を見渡  す。そこを。 「やや! ルプス殿ではありませんか!」  甲冑姿で面倒くさそうなヤツに見付かってしまう。  スルーしても良かったのだけど、ヤツで自らの予定を変更される  はそれはそれで癪だと思う。なので手招く彼の下へと行くとしよ  う。 「何だよ───って。リュゼも一緒かよ。」 「偶然ね、偶然。」  甲冑男、玉蜀黍が座る丸テーブル席には狐の獣人が相席中。  知り合いの獣人っ子、リュゼも一緒。  こいつらよく一緒に遊んでる印象だけど、敢えてそれを口にした  りはせずに。 「で? あによ?」  態々声かけたのならそれなりの理由があるのだろうと思い。  俺は玉蜀黍の隣、リュゼの対面席へ腰を下ろしながら二人に話を  促す。どうでも良いような話だろうなと思っていた俺は、仮想コ  ンソール開きお店のメニューを表示。徹夜の〆は肉? そんな事  を考えていると。 「何って、不具合よ不具合! ルプス、アタシたちに黙ってたで  しょ!」 「え゛!?(不具合ってのは……まさか俺の事か!?)」  とんでもなく俺の度肝を抜く話しだった───
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