第二十六話 店も人もそれぞれ。

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第二十六話 店も人もそれぞれ。

 ───多くのPCにNPC達が行き交う町中を一組の男女が連れ歩  いている。  ディアンドルにも似た衣服に身を包むブロンド女性と、空色の  髪をしたフォーマルスーツの青年。酒場を出た二人は町の大通  りへ向かい歩を進る中、ブロンド女性が少し申し訳無さそうに  隣の青年へと顔を向けた。 「あの。本当に良かったのでしょうか?」  隣を歩く女性NPCが何て訪ねてきた。俺は彼女へ顔を僅かに傾  け。 「へ? 何がです?」 「先程テーブルを囲っていた皆さんと、何かお約束があったの  では?」  ああそう言う事か。 「大丈夫ですよ。彼奴等とは何時でも遊べますし、後で埋め合わ  せも出来るんで。だけど此方は今だけっすからね。」  仲間でフレンズな彼等は誘いたい時に誘え会える仲だけど、此方  は不定期好感度イベント。そして俺はNPCの好感度上げをこのゲ  ームで嗜んでいる紳士プレイヤー。だから此方を優先して当然な  のであった。  あっちもそれはよく分かってるしな。 「そ、そうですか。特別な意味は無いと分かっているのですが…  …。ちょっとだけ照れてしまいますね。」  控えめな笑みで放す女性NPCの姿。んー良い反応。  此方を気遣ったりちょっと照れてみたりと、マジで此処のNPC達  は最高だよな! 俺も結構なVRゲーを渡り歩き、恋愛系も触って  見た口だけど。此処までマジな感じは無かった。  どれもクオリティは高いのだけど、何か足り無い。此方の期待以  上は引き出されないと言うか……。 「ふふ。」 「(こんなにも自然な照れ隠しな笑み、他じゃ見れないよなぁ。  しっかし、前の一回で随分と好感度を稼いでいたんだなー俺って  ば。)」  マスクデータとしてだけど、NPC達には好感度ってのが存在して  いる。それ自体は周知の事実だけど、具体的な稼ぎ方や一体幾つ  貯めればイベントが発生するのか。またイベントとはどのような  物なのか? それらは未だ持って不明。 「(明確に好感度イベントって分かられない事も多い。こうして  誘われたら~とか。ぶっちゃけ此方がそうと思ってるってだけの  話だしな。)」  このゲームのNPCには結構謎が多い。普通に生活しているけど、  一体何処まで作り込まれているのだろう? そんな疑問を持ったP  Cが居なかった訳じゃない。  過去、どのゲームにも付き物な攻略記事作成の為。一部プレイヤ  ーが検証班として立ち上がった事がある。個人、攻略サイトから  の依頼やサイト主自身等。集まった彼等はその調査へと乗り出し  たのだ。  しかーし。  そんな彼等を持ってしても結果は───解明不可だったらしい。  らしい、と言うのも挑んだプレイヤー達はその後何事もなかった  様に記事を更新したり、いつの間にか居なく成ってたりと何だり  と振る舞い。本当に調査に乗り出したのかすら怪しいのだ。  噂では検証に挑んだプレイヤー達は皆尽くNPCの虜になってしま  ったとか。運営から『ゲームにも秘密が大事だ。』と、直々に差  し止めを受けたとか何とか。  そんな憶測が流れては、所謂ミイラ取りがミイラってオチも流行  りもしたなぁ。  まあ本当の所は誰にも分からない。検証に出たってPC達も今は殆  ど居ないって話しだし。  そんなこんなで界隈ではそれを面白がり。“好感度について調べ  ると不吉”だとか“NPCの秘密暴くべからず”みたいなエンタメ  的ジンクスが生まれ、本当に誰も調べようとしないのだから面白  い。  ま、分かんない方が面白いって皆思ってるんだろうなぁ。俺もそ  う思う。それにNPCの好感度って冒険する連中にはあんまり価値  ある情報でも無いしね。 「それで? 買い物は何処へ案内しましょうか?」  俺は雑多な考えをやめ。今はNPCとの交流を心から楽しむ事に。 「あ、はい。実はこれ、なんですけど……。」  尋ねたブロンド女性NPCが立ち止まり。両手を前へと差し出し掌  を上へと向ける。するとその上に光が収束を始め、一瞬瞬いては  厳つい槍が両手の上へと姿を表す。何時か見た彼女の装備品、な  のだけど。 「随分ボロッボロっすね。」 「はい……。」  現れた槍は、まるで長年使い古されぶっ壊れる直前。みたいな、  そんな状態で彼女の両手に握られている。柄を地面へと下ろし  ては、抱えるようにして槍を持つ彼女。その様子は何処か所在  なさ気。 「何でこんな事に?」 「実、はですね。あの後腕が鈍ってはと、覚えた感覚を鍛えよう  と日々鍛錬を重ねていたら。……気が付くと武器がこの様に。」 「ナルホドー。」  見た目は何処からどう見ても綺麗なお姉さんな女性NPC。その口か  ら“鍛錬”何て言葉が出るのだから此処は面白い。酒場の店員さんに  そんな物は必要ないと思うけど、多分これがこのNPCの特色なんだ  ろうね。戦闘が得意な傭兵NPCでは無い一般NPCの中にも、戦いが  得意なNPCが居たりするし。 「これを直す便利なあいてむ、などは一体何処で購入出来るので  しょうか?」  そう言えばこのNPCは冒険初心者って言う(てい)だったっけ。  槍を抱くように抱えるNPC、その腕には俺が別れ際にあげたあの  ブレスレットの姿も。彼女は槍を抱えるその手でブレスレットに  そっと触れている様子。  あんまりも初心者な雰囲気だったので渡した装備だけど、愛用さ  れているのを見ると結構嬉しい物があるな。ま、それは良いとし  てだ。 「品質改善アイテムを買うのも良いんですけど。取り合えず鍛冶屋  にでも行きましょうか。」 「ああ。鍛冶師なる者がこの町にも居るのですね。」 「……ええ。あっち側がそれ系の集まりの通りっすよ。(自分が置  かれてる町なのに知らないのか? どう言う設定で運営は置いたん  だ?)」  俺はマジな初心者に徹する女性NPCを連れ、この町の鍛冶屋さん  が集まる通りへ案内する事に。  鍛冶屋。このゲームに存在する鍛冶屋は武器の修理から性能カス  タマイズまでを熟せるスキル、アビリティを習得したNPCかPCが  働いて居るのだけど。 「! 彼処でしょうか?」  槍を抱き歩く女性NPCが一軒の鍛冶屋指差し言う。  見れば比較的大きな店構えで、尋ねるPCも多く繁盛している様子  の鍛冶屋。悪くは無い、悪くは無いんだけど。 「ヒトがあんなに沢山! 繁盛していると言う事は腕に覚えあり  と言う鍛冶の者が居るに違いありませんね!」 「……。(何事も経験かなー。)」  思う所を飲み込み、繁盛している鍛冶屋へ向かう彼女へ何も言わ  ずに付いて行く。  外見は中世風な見ただけど、店内は量販店の様な作り。  表に置いてあった雰囲気だけの金床とかは無く、商品が棚に並び  店員さん達が居たりカウンターがあったりと。実にお店っぽい。  景観さえ繕えていれば中身は比較的自由な物が多いけど、このお  店はマジで自由だな。  まあ何処のお店行っても、同じ系列のお店なら内装は何処も同じ  ってのはよくある事。だから見慣れてはいるけどね。 「………。」 「(驚いてるのか?)」  店に入った女性NPCが辺りを物珍しげに“キョロキョロ”と見回し  て居た。別にそんな珍しく無いと思うけど……。来たのが初めて  なら驚くか。まさかNPCが世界観とかのメタな違和感気にしてる  訳でもあるまいし。  そんな風に二人鍛冶屋の入り口近くでぼっ立ちしていると、早速  店員さんが此方に近付き。 「いらっしゃいませ! リペア、カスタム、本日はどれをご利用で  しょうか?」 「あはい。え、えと。装具の修理を……。」 「リペアのご利用ですね、ありがとうございます。ではフルリペ  ア、コーティングリペア、クオリティアップリペアのどれをご利  用でしょうか?  それと現在当店ではリペアご利用のお客様へリペアキットのセッ  ト販売サービスをお勧めさせていただいておりまして。ご興味  がありましたら是非此方のサービスもご検討ください。  それでは、リペアのコースは何方に致しましょうか?」 「………。」  口を開け固まる女性NPC。俺は放心状態の彼女に代わり、見た目  はちゃんと中世風の店員さんへ。 「ああすみません、今のはちょっとキャンセルで。」 「? 分かりました。」 「申し訳ない。また来ます。」 「またのご利用をお待ちしてます。」  此方にお辞儀を見せる店員さんへ会釈を返し、放心状態の女性NP  Cの背を押し。二人で鍛冶屋から出る。  店を出て少しした所でやっと。 「な、何を言ってるかよく分かりませんでした……。ただの修理  ではダメなのでしょうか?」 「(俺もそれは思う。)」  まるで専門店なカフェに初来店しては、専門用語の応酬に困惑し  たOL見たいな様子。気持ちはメッチャ分かる。  それか初オンゲで玄人に混じり、分かった動きを求められる高  難度に紛れ込んでしまった初心者みたい。そんな彼女へ。 「鍛冶屋さんにもそれぞれの特色があって、今のお店は既に分か  ってる人達が通う様な場所でしたね。店側もそれ前提で数を捌く  接客して来ましたし。」 「そうだったのですね……。うう、なんだかお店に入るのが少し  だけ怖くなっちゃいます。」  力なく笑顔を見せるお姉さんNPC。あるあるだなぁ。  ぶっちゃけ俺も同じ思いしたし。 「しかし。恐怖で足を竦ませるなど乙女の恥。次に行きましょ  う!」  直ぐに気を取り直した女性NPC。暫く店に近づけなかった俺とは  大違いだ。 「まあ次は大丈夫っすよ。お店を見分ける素晴らしい方法がある  んで。」 「本当ですか?」 「本当です。簡単な話し、お店に入る前に外の看板をチェックす  れば良いんですよ。」  言いながら俺は今出て来た鍛冶屋、その前に置かれた小さな外看  板前へと移動し。 「此処だと“最速リペア”“分解生産不可”“スピード処理”っ  て書いてますよね?」 「書いてあります。」 「これは修理時間が最速で、アイテムの分解生産は取り扱って  無いって意味と、説明省いた速さでの取引進行ですよって意味  なんすよ。  まあ最速リペアって書いてる店は基本修理特化のお店だと覚え  てれば問題無いですね。」 「ふむふむ。」  看板から離れ俺は通りを歩き出す。その後を女性NPCが少し慌て  て追い駆けて来る。 「他の雑貨屋なんかも表看板を見れば大抵の事は載ってるので、  お店を利用する前に表看板のチェック。これが大事ですね。」 「分かりました。記憶します。……でも、どれを選べば良いの  でしょうか? 指針が私には無いみたなので……」 「そんなリストゥルンさんの様な人に向いたお店ってのがあるん  ですよ。」 「私の様な者の、ですか?」 「ええ。」  見た目は完璧にお姉さんなのに、何処か頼り無さ気な雰囲気を時  折漂わせる彼女を連れながら。今の目的に即した鍛冶屋を探し歩  く事に。  こうして店を探して歩くだけでも楽しいのがVRゲームで、しかも  今は隣に現実に居たとしても到底隣に並び歩けないレベルの。綺  麗な人がいるのだ。うーんVRゲー最高。  頭の片隅で少しの優越感を感じつつ、目的に即した店を探し歩く  中。一つの鍛冶屋で俺の視線が留まる。 「お。此処なんか最適そうっすね。」 「此処ですか。えっと……。“初心者歓迎!”“鍛冶屋利用が初  めてと言う貴方へ!”“接客担当が優しく熱く接客します!”  ですか。……ほほう。」  このゲーム、VRMMOエリュシオンは仮想世界と呼ばれる場所に存  在している。  体験型仮想世界のMMOと言うだけあって、其処では遊んでいるプ  レイヤー達に依って実に様々な“流れ”と言うモノが生まれてく  る。  さっきの店の様な既に分かってるPC向けの、知識を持っている脱  初心者達を相手にしたお店が大手な主流とされる一方で。  沢山ある武器種類の中で、余り人気の無い武器種一点特化の鍛冶  屋さんであったり、ガチ初心者さんの為にとお店を出すPCが居た  りと。それぞれのしたい事や思う事から生まれてくるモノが沢山  ある訳で。  この店は正にその一つと言った所。思えば俺も初心者時代はお世  話に成ったもんだ。  今じゃ早い方にと流れを移したど、それでもたまには顔を出すよ  うにして居たなぁ。……まあもう俺の初心者時代にお世話に成っ  たお店は無くなっちゃたけどね。突然知り合いや店がなくなるの  もオンゲのあるあるである。  少しの哀愁を胸に感じる俺の隣では、看板を覗くために腰を曲げ  ていた女性NPCが身を引き。 「まぁ……。今の私は……初心者、ですし……。」 「?(もしかして拗ねちゃってる?)」  設定的には確か“大戦に参加した。”とかだったけ? NPCのバッ  クボーン的には納得できない文言なのかも知れない。まあ細かい  反応には“スゲー”と思い、一度それは置いといて。 「早速中へ入りましょう。」 「そうですね。……ふぅ。いざ!」 「(さっきの引きずってるなぁ……。)」  外装が少し和チックな初心者向け鍛冶屋さんの、その店内へと歩  を進める事に。  大手と違いこぢんまりとした店内。内装も和的な事もあり、まる  で日本の地方お土産屋さんの様な店内だ。店内にはお客さんが余  り居ない様子。  おかしいな。こう言う初心者向け鍛冶屋さんとかは、それなりに  人気な筈なんだけど? 疑問に思いながら店内入口近くで立って  居ると。店員らしきが此方へ近付いて来る。 「……。」 「(わーお。)」  近付く誰かは鉢巻頭に、半袖シャツを肩まで捲くり上げ。良い筋  肉を見せ付ける男性キャラ。刀鍛冶師とか言われたら納得出来る  見た目。 「あの風格……! 間違いなく出来る鍛冶師ですね。」  見た目に納得の様子を見せる隣の女性NPC。確かにぽいっちゃぽ  い。創作によく出てきそうな刀鍛冶師な男性キャラは、俺達の側  へ来ると。 「らっしゃい。本日はどの様な御用で?“修理”“改造”“分  解”に、雑貨の売り買い何でもござれだ。」 「おおー……。おおーおおー! あの、ではこの槍の修理を頼み  たいのですっ。」  女性NPCが男性へと槍を手渡す。槍を受け取った男性キャラは。 「“修理”だな。では───(かしら)!」 「「?」」  店奥へ叫ぶ。すると奥へと通じる通路、暖簾(のれん)を潜りひょろっと  した体に長髪を纏めた。尖った耳を持つ男性キャラが姿を現し。 「はいはーい。呼びましたか甌穴(おうけつ)さん。」 「頭。此方鍛冶依頼で、修理がご希望のお客様です。」  会話しながら彼は、槍をひょろっとした男性へ手渡す。 「………。」  隣では混乱した様子の女性NPCの姿。俺も久しぶりにギャップで  驚いてる。どっからどう見ても鍛冶が出来そうに無いエルフ種の  男性キャラが、昇り龍のプリントされた法被(はっぴ)法被(はっぴ)を着て現れたんだか  ら。多くのキャラを見慣れた俺もそりゃ少しは驚くさ。  こう言うのに慣れて無反応に成りたいとは思わないので、驚ける  自分に安心するよ。……いや何で安心? 「アハ。もしかして驚いちゃいました?」 「え、あ。その……はい。」  頭で変な疑問を浮かべる間に、法被のエルフ男性から言葉が飛  び。非常に応え辛い様子で返事を返す女性NPC。 「ねー。彼の方が如何にもって感じですもんね。僕もソレで雇っ  たんですけど。彼、接客が好きらしくて。」  俺達は二人揃って鉢巻男性を見遣る。照れた感じで視線に会釈を  返してくる男性キャラ。此方も此方で超ーいがーい。 「まあそうやって見た目で雇ってたら素材採取好きに何やら  と。だーれも鍛冶スキルを持ってないって言う話し。良いんです  けど。店回ってますし。」 「それはまた、難儀です、ね。」 「イヤー本当に難儀なのはリピーターが家にはほっとんど居ない  って事なんですよ? アハ、アハハハハ……はぁ。」  今度は流石に女性NPCの方も何て声を掛けていい物かと悩んでい  る。  彼に言われて店内を見れば、店員さんは皆おっさんばかり。客  は美男美女の店員を求め他所へってか? 此処は此処で結構コア  な人気を得られそうなんだけどなぁ。 宣伝とかに問題ありか? 「やっぱり西洋風な町に和風ってのがミスマッチでしたか  ね……。店主の僕も見た目バリバリのファンタジーですし。」  景観は多分其処まで関係無い。世界観云々言うならこの町中には  ハーピーな見た目のプレイヤーとか普通に道を飛んでるしね。こ  こがウケて無いのは単に他の店の方が良いか、集客テクニックの  問題だと俺は思う。……美人な店員さんの数とか、ね。  何て事は思えど口にはせず。とりま隣で困ってるNPCの為に何か  適当言っとこっと。 「この店にはこの店の良さがりますよ。和風、俺は好きっす  よ。」 「……見る目がありますね。では是非この『エドワード』が鍛冶屋  をご贔屓に。」 「それはエドワードさんの腕次第っすわ。」 「おおっと!」  両手を上げて後ろに傾くと言う動作を、メッチャオーバーなリア  クションでして見せた彼は、体勢を戻し『確かに。』と呟きなが  ら受け取った装備を手に店奥にある小さなスペースへ移動して行  く。  一連の動きに呆気に取られる俺達を、鉢巻筋肉キャラが『皆さん  もどうぞ奥へ。』と案内してくれる。  奥のスペースには台と椅子が置いてあり、店主らしきは台ヘ槍を  乗せ鑑定を始めた様子。対面へ促された俺達は、リストゥルンさ  んが椅子に腰を下ろし、俺は近場にあった雑貨を覗かせてもらい  ながら待つ事に。そうして少しの時間が過ぎた頃。 「あー……。」  等と言いながら店主が槍から顔を上げる。  店主の声に俺は雑貨からリストゥルンの隣へ移動。 「これ、本当に修理します?」 「えと。それはどう言う……? もしかして私の槍はもう直りま  せんか?」 「いえいえ直ります、直りますとも。 ただですねーこれ。修理  費考えると新しい装備に更新した方が良いんじゃないかなーっ  と思いまして。」  言いながらエルフ男性は一度槍を指差しては、その隣に仮想イ  ンターフェースが出現。店主はその画面を指差しながら。 「どちらで入手したか物か分かりませんが、この内部ステを見  て貰えば分かると思いますけど、同じレベルの装備と比べて  も基本性能が大きく下回って製作されてますね。しかも最低  品質。  失礼を承知で言いますけど、コレはレアリティ詐欺も良い所  の、所謂粗悪品の類ですよ。」 「そ、粗悪品……。」 「ええ。此処まで酷いの久しぶりに拝見しましたよ~。  制作費をケチったのは勿論、鍛冶師の拙いスキル振りが透けて  見えます。品質の良くない素材で作ったにしても此処まで酷く  出来るとは……。ある種腕があるとも言えますねぇ。  ですので。この状態から色々上げて使うと言うのも、僕はオス  スメ出来ません。それでも修理をってなるとお値段の方がです  ね……。この位は掛かっちゃいます。」 「……!? け、結構掛かるのです、ね。」 「食う修理素材だけは良い物、しかも沢山食べますからねこの  子。」  良い事じゃ無いけど、余りな話しに気になり。チラリとインタ  ーフェースを覗き込む。おおう、修理だけを考えるなら高い、  高過ぎる金額が表示されてるなぁ。  攻撃力だけの槍だとは思っていたけど、まさかそこまでの品物  だったとは。非戦闘員っぽいNPCの装備だからと適当で割り振  られちゃったのかな?  こんなモン俺なら解体かゴミ箱行き。あ、解体費考えたらやっ  ぱゴミ箱行きか。 「いかがします?」 「その、じゃ、じゃあ武器の修理はいい、です。」 「では此方、お返しします。」  武器を受け取る女性NPC。彼女は武器を何もない空間へと仕舞  う。  うーん。あの武器にはよっぽど何か思い入れでもあるのだろう  かね? ……ま。それはそれとして。 「すいません。此処って生産とかもしてます?」 「してますよー。あ、何か作って行きます?」 「そっすね。せっかく何で一つ、装備を作ってもらおうかな。  構わないです?」  オマケで付いて来た俺は主目的で来た女性NPCへ言葉を飛ば  す。 「え、あ、はい。私の用事はもう済みましたから……。」  了解を得た俺は周回で手に入った副産物と、倉庫に眠ってる適  当な素材アイテムを見繕い。 「これで適当な長柄武器、パルチザン辺りでも作れないっすか  ね?」 「………。」  エルフ男性キャラは差し出した素材一覧を真剣に吟味し。 「はい。問題ないですねー。」 「お。ならコレでオナシャッス。」 「初期カスタマイズとか弄っときます?」 「あー……“軽量化”一択で。後は“品質”を出来るだけって  感じでお願いします。」 「分かりました。ではお支払いは彼へ。僕は奥で作って来ます  ねー。」  そう言って応接スペースから素材を手に工房らしき店奥へと  向かうエルフ。  俺はマッチョな店員さんへ支払いを済ませては、完成を待つ  事に。 「あの、カスタマイズとは?」 「ん? ああカスタマイズってのはですね───」  ゲーム内での武器や防具やらのカスタマイズの幅は豊富で、同じ  武器でも攻撃速度に影響する重さや、元々の攻撃力等と言った各  種ステータスにカスタマイズで差異を作る事が出来る。  一定の物で言えば知識をつければ出来ない事も無いけど、本当に  凝った物をと考えるなら。鍛冶系スキル、アビ、装備と腕を揃え  たPC。エキスパート(専門技能習得者)の存在が必要不可欠。  だが鍛冶師は必要装備の敷居もそうなんだけど、“スキル”を覚  えるのもまた一苦労なのだ。 「スキルってのが関わってきて───」  エリュシオンではスキルが魔法や技と言ったモノに当てはまり、  戦闘非戦闘に関わらず、スキルを習得してないと魔法も技も使用  出来ない。  しかもこのスキルシステム、複数のスキル同士を組み合わせて全  く別のスキルを生み出せたり、何て事も出来てしまう。  基礎スキル、特殊スキル、秘伝スキル等と呼ばれるそれらの組み  合わせは仮想世界と同じ位に広大。プレイヤーの発想次第だね。  まあ勿論無条件に作り出せる訳じゃないし、法則性や条件付け何  かを怠ると───クソ見たいなスキルが出来上がってしまう。  具体的には威力零、発動AP消費が百とかね。誰もが分かる失敗。  覚えているスキルもPCに依って違うので、持ってるPCが作った複  雑な条件付けから生み出された一つのスキルは、正に秘伝の域。  そんなスキルもイベント報酬や、PCやNPCから教えてもらう事で  習得可能なのが、楽しみの一つ。  中にはスキル開発に心血を注いで、出来上がった物を販売して利  益を得ているPCも居る。新魔法を売るって感じにね。 「(しかも誰かにスキルを習得させる時には、スキルの中身を  不可視化して渡す事も出来るから、価値を保てるって仕様。  他にも使用期間を決めてのリース契約だったりと。色々。)」  ただーし。生産系と呼ばれるPC達は、苦労して作ったそれらをお  いそれとは教えたり、売ったもしない。  有名な生産系のPC達は皆独自の技法(スキル組み合わせ)持っていて、多くは黙  された秘伝だ。  じゃあ覚えるにはどうするかって? 彼等の弟子になって学ぶしか  方法が無い。  本人の気次第で一瞬で習得出来る物を? って思うかも知れない  けど、これが結構流行ってる。弟子入りってロールがそれっぽい  しね。  勿論弟子入りしなくとも独自に鍛冶の技術を磨く事は可能。  そうして装備、スキルを揃えた後は。カスタマイズの仕組みも覚  えないと行けない訳で。詰めると成ればプレイヤースキルが其処  から必要。マジで鍛冶師や生産系のPCたちは本当に凄い人ばっか  りだよ、ホント。 「───って感じっすかね。」  俺は知ってる全て、では無く。掻い摘んでざっくりとカスタマイ  ズに付いて、鍛冶師についてリストゥルンさんに説明。 「はー……。鍛冶師、と呼ばれる皆さんは大変なのですね。」 「ですね。まあ凄い人は何系でも凄いんですけどね。  今の鍛冶師さんも俺の注文を特に問題なく請け負ったので、  中々腕の立つ人だと思いますよ。此処、本当に贔屓にしても良  いかも知れないです。」 「成る程……。それにしても。」 「?」 「ルプス様は鍛冶師では無いのに、よく知っているのですね。」 「表面だけっすよ、表面だけ。」 「だとしても知識を持ってる事は素晴らしい事です。ええ。」  笑顔、と言うか何か期待と言うか尊敬と言うか。それらに似た何  かで俺を見詰めて来るリストゥルンさんと。適当な雑談をして鍛  冶師さんが戻るのを待つ事に。  暫くすると奥から。 「出来ましたよー。」 「「!」」  と言う声と共に、槍を手にした法被エルフが戻って来た。 「はい此方“軽量パルチザン”ちゃんです。」 「ども。(……ちゃん?)」  早速出来上がった武器のステを調べる。店に依っては出てからが  マナーな行為だけど、此処だとインターフェースを開いて確認を  求めてくるタイプらしい。俺の好きな方だ。 「……うん。質もステも悪くない。エドワードさん、本当に腕が良  いっすね。」 「でしょう! 是非是非ご贔屓のほど、ほどど。」 「要検討で。」 「ありがとーございまーす!」  ノリも面白いキャラだなぁ。俺はコッソリ店の場所と名前をメモ  へ追加しては、店主と少しだけ話をしてリストゥルンさんと共に  店を出る事に。 「ではまたの来店、是非是非是非待ってますー!」 「またのお越しおう!」  店外まで見送りに出てきてくれた厳つい店員さんと店主さんのセ  ット。それぞれへ手を振り、店から少し離れた所で。 「(ここらで良いな。)リストゥルンさん。」 「はい?」 「これを差し上げます。」 「え゛!?」  俺は先程制作した槍を取り出し彼女へ譲渡する事に。  驚きながらも差し出された槍を受け取る女性NPCは、一旦は槍を受  け取るも。 「な、な、何故でしょうか?」 「リストゥルンさんにはさっきの武器の代わりが必要だと思いま  して。あの槍、思入れがあるっぽいですし。」 「でも申し訳ないです、そんな私にだなんて……。」 「気にしないで大丈夫っすよ。端材で作った装備ですから。  あ、でも性能はそれなりなんで。前の槍よりは使い易さも上がっ  てると思います。」 「……。」  彼女は本当にもらうかどうかを悩んでいる模様。周りに人の影  の様子も無いし。よし、ここは。 「俺が教えた事を、鍛錬って頑張ってるリストゥルンさんに何  か、個人的に贈り物がしたかった。そんだけ、何ですけどね。」  ゲームキャラの笑顔もセットだ。  これで相手が肉入りであれば今のセリフは恥ずかしい。ロール  に徹すれば言えるかも知れないけど、NPC相手ならもっと言い易  い。それに俺は好感度目的だしね。今回の相手はNPCとも分かっ  てるし。さ~て? NPCの反応は何方に転がるかな? 「もう……。そう言うズルイ言い回しは良くないですよ?」 「!!」  違和感の無い困り笑顔を浮かべそう言うと。 「ありがとう。心から大切にしますね、この槍を。」  ふんわりとした笑顔を一度浮かべ、贈り物の槍を抱きしめるNPC。 「(うーんグッド、グッドですねぇー。)」  オンゲで貢ぐって行為は中身が入ってても入って無くとも俺は好  きじゃない。段階を踏んで、適切なタイミングで適度に送る程度  が好みだ。物で好感度ガン上げってのは下衆ってのがあるしな。  けど。今回は自然な形で渡せる機会だった。それに何より。 「(好感度抜きにしても、なーんかこのNPCってマジな初心者っ  ぽくてなぁ。)」  バックボーンとは噛み合わないが、言動全てがまさにゲームプレ  イ初心者。なのでつい、ついついこう言った“面倒見”を発揮し  てしまった。  後輩とか知り合いを誘って、来てくれた子に色々プレゼントしち  ゃうアレね、アレ。  それに似たモンを彼女から感じて、ほっとけ無いんだよねぇ。  俺は笑顔を見せる女性NPCへ。 「あ、修理をする時はあの店に行くと良いっすよ。  彼処、修理の時に装備変更とかってアドバイスくれましたけど、  普通はトラブルとかの元なんで言わないんすよ。でもあの人は  それを押してまでアドバイスをくれたんで。多分良い人っす。」 「はい。私もルプス様と同じで、少しはヒトを見る目があります  から。あのヒトは悪意のヒトではありませんね。」 「(悪意の人、厄介PCとかって事かね。NPC的感覚だと。)」  其処で頭で考え相槌を忘れたからか、二人の間に少しの間が出  来てしまい。 「「……。」」  切っ掛けを逃し無言の時間を少し過ごす事に。 「(贈り物後だからか、ムズムズするな!)」 「あの槍、思い入れとは違うのですけどね……。」 「?」  ふと彼女が何かを呟いては、渡した槍を仕舞い。此方を真っ直ぐ  に見詰め。 「ルプス様。最後に一つ、どうしても寄りたい場所があるのです  が───」  なんだろう。今の今まで話して居た人物とは雰囲気が少し変わっ  た気がする。気の所為でしか無いのに、そんな気がしてならない  のは何故だろう。 「───是非。ご一緒して頂けますか?」  彼女は何とも言えない、それを笑み言い切って良いのか怪しい  表情を俺に見せては誘う。 「い、いいっすよ。勿論……。」 「!」  答えた瞬間。釣り上げられていた頬がまた僅かと釣り上げり、  細められた目がまた少しと軟らかく細まる。 「では此方へ。」 「……ッ。」  あるのか無いのか分からない唾を飲み込み。  “イエス”と言ってしまった俺は彼女の背を追う事しか出来な  かった───
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