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帰宅すると外階段を上がり玄関を開けた。
「…ただいま。」
誰もいない事は知っているけど、小さく呟いてリビングに少し顔を出してから自分の部屋に行く。
自分の部屋に入るとベッドに横たわった。
(あぁ〜!嫌だなぁ。秘書なんて…柄じゃないのにやってこれたのは社長がお優しいからだわ。社長以外の人に仕えるなんて…無理だと思うのよね?)
社長に言われた事を考える。
ーー「息子が心配でね?助けてやって欲しいんだ。」
「そんな事社長に言われて嫌ですって言える?」
バタバタと布団の上で泳いだ。
元々、黒田静は総務課に配属された。
総務に出入りする人事部部長が人事に欲しいと言って下さり、人事部に異動した。
人事部に数回、顔を出された社長にお茶を出した事で、ちょうど辞める事になっていた社長秘書の後釜として、社長から直接、指名されたのだった。
運に誘導される形で普通の会社員が社長秘書になった。
何も分からない静を指導したのは、残りひと月で辞める予定の社長秘書の飯島だった。
結婚退職と聞いていた。
社長は素晴らしい方で働くことも楽しくなった。
(………社長には悪いけど…いい噂は聞きません!)
そんな人の秘書……胃が痛くなっていた。
「しず〜?帰って来たとこ悪いけど…ちょっと手伝ってもらえないかな?バイトが休んじゃってさ…。」
申し訳なさそうな声が下から聞こえた。
身体を起こして返事をした。
「着替えたらすぐ行くー!」
「助かるぅ〜!」
スーツを脱いで制服に着替えた。
黒のズボンにカッチリとした襟の立つ白いワイシャツ、その上に黒のベストを羽織る。
父親の店、「black✖️black」の制服に着替えて、前髪を上げて肩下の髪を後ろでお団子にまとめると、一階へ降りて行った。
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