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一階に降りるとすぐに事務所があり、そこを出て数段降りて、廊下を進むと目の前にカウンターバーの中で、右手に厨房がある。
お店は半地下になっていて、ロフトの様な二階部分も僅かにテーブル席が3つある。
フロアにはテーブル席が6つとカウンター席のみの小さなバーである。
経営者は父で静はあくまで臨時のお手伝いだ。
「バイト休んだって誰?」
小さな声で父に聞いた。
「尚君。」
「尚也?珍しい事もあるわね?」
「フロアもカウンターもいいから、中で注文捌いてくれるかな?」
「分かった!任せて。」
父の店は隠れ家的になっていて宣伝らしい事もしてないから、知っている人のみが来るか、偶然見つけた人が来る程度。
混雑という程ではないが、赤字が出ない程度には儲けている。
今はランチの時間帯に喫茶店として店を開けて、18時になるとバーとして再び店を開ける。
父がこの店を始めたのは私がいたからだ。
産まれてすぐに母が亡くなった。
赤ん坊を抱えた父は当時会社員、妻の葬儀中も赤ん坊にべったりだったらしい。
ーー「お母さんにね、言われたんだ。お願いしますって。しずをお願い。最後まで静とお父さんの心配をしてた。お母さんのお願いをどうしたら叶えられるか、葬儀の間中考えたんだよ。」
結果、自分の家で商売をする事で、子供とずっと一緒にいる事を父は選んだ。
脱サラして始めた店が「black✖️black」この店だった。
最も最初は暗い雰囲気の喫茶店だった。
18時閉店のやる気のない喫茶店。
食事はあまり数もなく、コーヒーだけは美味い。
小学校の3年生頃には帰ると店のお手伝いをしていた。
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