2600人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな頃から自慢の父。
スラッとした体型に柔らかな流れる髪、清潔感のあるハンサムさんだ。
50歳を過ぎたが身長も180センチあるし、お腹も出ていない。
そんな父の元に縁談が来た事もある。
5歳の私は泣いて嫌がった。
父を心配して持ち込まれたお見合いで、相手は大変に乗り気。
母以外の誰かを「母」と呼びたくはなかったし、父を取られる気持ちもあったと思う。
再婚話は露と消え、父はその後全ての縁談を断って来た。
自分がこの歳になると申し訳なさしかない。
「しずぅ〜。」
甘えた声で父が呼ぶ。
こういう時は裏がある。
厨房から出てカウンターの中に行く。
「なぁに?」
「ごめん…!お願い!カウンター入っててくれない?」
「ええ?厨房はいいの?」
「うん…もう21時過ぎたから料理のオーダーは止めるから。バーなのにバーテンがいないとかあり得ないから!ね?お願い!!」
両手を合わせて拝まれた。
奥の席を見ると常連さんに父は捕まっている様だった。
「……分かりました。ちゃんと後で交代してよ?長い時間は嫌だからね?」
「ありがとう!静!…じゃなくて…せいちゃん!よろしくね?」
バーには時にめんどくさい客も来る。
親子という事は封印して、カウンターに入る時は「せい」という源氏名を名乗る。
会社では髪を一つにまとめて、長めの前髪を下ろして6:4分けで鬼○郎みたいになっていてメガネを掛けている。
グレー、ベージュのスーツを着て暗いイメージをしているから、前髪を上げて少しだけ横の髪をクルクルっと下ろして、メガネを外し、化粧をバッチリしている派手な「せい」を昼間の「静」と結びつける人はいない。
これにはちょっとした事情もあった。
最初のコメントを投稿しよう!