スタートは突然に。

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小さな頃から自慢の父。 スラッとした体型に柔らかな流れる髪、清潔感のあるハンサムさんだ。 50歳を過ぎたが身長も180センチあるし、お腹も出ていない。 そんな父の元に縁談が来た事もある。 5歳の私は泣いて嫌がった。 父を心配して持ち込まれたお見合いで、相手は大変に乗り気。 母以外の誰かを「母」と呼びたくはなかったし、父を取られる気持ちもあったと思う。 再婚話は露と消え、父はその後全ての縁談を断って来た。 自分がこの歳になると申し訳なさしかない。 「しずぅ〜。」 甘えた声で父が呼ぶ。 こういう時は裏がある。 厨房から出てカウンターの中に行く。 「なぁに?」 「ごめん…!お願い!カウンター入っててくれない?」 「ええ?厨房はいいの?」 「うん…もう21時過ぎたから料理のオーダーは止めるから。バーなのにバーテンがいないとかあり得ないから!ね?お願い!!」 両手を合わせて拝まれた。 奥の席を見ると常連さんに父は捕まっている様だった。 「……分かりました。ちゃんと後で交代してよ?長い時間は嫌だからね?」 「ありがとう!静!…じゃなくて…せいちゃん!よろしくね?」 バーには時にめんどくさい客も来る。 親子という事は封印して、カウンターに入る時は「せい」という源氏名を名乗る。 会社では髪を一つにまとめて、長めの前髪を下ろして6:4分けで鬼○郎みたいになっていてメガネを掛けている。 グレー、ベージュのスーツを着て暗いイメージをしているから、前髪を上げて少しだけ横の髪をクルクルっと下ろして、メガネを外し、化粧をバッチリしている派手な「せい」を昼間の「静」と結びつける人はいない。 これにはちょっとした事情もあった。
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