2605人が本棚に入れています
本棚に追加
「本日行かれる宇野商事は社屋移転されています。」
間部が声を掛けると、冬夜は頷いて答えた。
「さっき聞いた…。間部も親父付きだったよな?」
「はい、そうでございますが。」
「秘書の黒田の事は?」
「存じております。仕事ではお顔も拝見致しましたし、この車にお乗せした事もございます。」
「噂は?」
冬夜の言葉に、チラッとバックミラーを見てから間部は答えた。
「噂…と言われましても敬様の噂、冬夜様の噂、それなりに耳にはしておりますが…。」
どれがよろしいですか?と言われている気分になり、
「そんなにあるのか?」
と、嫌そうに冬夜は呟いていた。
「自社の社長の事ですから。皆さん興味はおありでしょう。」
にっこりと微笑まれて、冬夜は続けて聞いた。
「親父と…前社長と黒田秘書の噂は?何処まで本当なのか知ってるか?」
「…何処まで?社長がどの噂をお聞きになり言ってみえるのかは存じませんが、私の知っているものは敬社長が気に入り強引に秘書にされて、何処に行くにも同行させるという物ですが……。それに関しては半々ですね。」
「半々?」
キツい目を間部に送る。
「はい。気に入られて秘書にされたのは本当で、強引でしたでしょうね?当初、黒田さんは嫌がって辞退されていたそうですから…。何処に行くにも同行させるというのは間違いです。同行の必要があればお連れでしたが、何処にでもという事はありませんでした。仲の良い親子の様でしたよ?」
「沢田と同じ事言うんだな…。」
「何か?」
「いや…何でもない。」
大きくため息を吐いて、冬夜は黙り込んでしまった。
最初のコメントを投稿しよう!